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京町家友の会

※「京の菓子暦」は、平成14年(〜15年)の取材記事です。
  桜の工芸菓子
 花は桜。この時期は、新聞やテレビの桜の開花情報を見ては、今年はどこへお花見に出かけようかと想い、悩みます。京都には桜の名所がたくさんあって、自分の一番のお気に入りの桜を見つけるまでは、毎年いろんなところへ出かけるつもりです。でも、本物の桜の花を見る前に、どうしてもつい手が伸びてしまうのが「桜餅」。店頭に並ぶ桜餅は、一足先に春の訪れを告げ、私たちの目と味覚を満たしてくれます。
和菓子は京都人の毎日の暮らしに密接に結びつき、生活と心を豊かにしてくれています。毎月のお菓子を紹介しながら、その奥にある京都の知恵と文化を探れたらと思います。


◆桜にちなんだお菓子

桜餅のいろいろ
 有名なのは、何といっても「桜餅」。江戸時代後期に隅田川の桜の葉っぱを利用して作られたのが、長命寺の桜餅だといわれています。小麦粉をベースにした薄紅色の生地を焼いて餡を包み、塩漬けにした桜の葉でくるみます。東京で桜餅といえば、こういう形が主流です。
 京都では、桜餅には道明寺粉(どうみょうじこ)を用います。道明寺粉とは、もち米を水につけて洗い乾燥させたもので、大阪・河内の道明寺のお供え米のお下がりから始まったものといわれています。蒸した道明寺粉でこし餡を包んで丸めますが、道明寺粉は白いままだったり、食紅をほんの少量使って薄紅色にしたり、ちょっと濃いめのピンクだったり。桜の葉も一枚でくるんだり、二枚使ってはさんだり、お店によって異なります。

 葉っぱは食べようか?残そうか?迷うところですが、これはどちらでも良いようです。お茶席では、包んである桜の葉を折り返して桜餅の下に敷き込み、黒文字を使っていただくことが多いようです。黒文字を使うと、葉っぱもいっしょに切り分けるのは難しいので、最初から葉をのけていただくことになってしまうのです。葉が柔らかい場合は、くるまれたままの形でお餅といっしょに食べればよいのですが、残った葉や軸は、懐紙に包んで持ち帰ります。一般の家庭でいただく場合は、黒文字などは使わずに、手に持って直接口へ運ぶのが常でしょう。食べ口を他の人に見せないようにしていただけば、そんなにお行儀の悪いものではないかと思います。
 ほかにも、桜にちなんだ生菓子はたくさんありますが、どれも淡い桜色が美しく、優しい形をしています。

きんとん桜

稚児桜(ちござくら)

弥生(やよい)

ひとくち桜餅

桜花寒天
 

◆餅菓子
 京都では、和菓子は「朝生(あさなま)」といわれて、「朝作って、夕方には売り切る」ものとされています。たとえば、大福餅、草餅、桜餅などの餅菓子類、どら焼き、きんつば、田舎まんじゅうなどの小麦粉を使った小麦饅頭の類、そして、柏餅やおはぎ、くずもちなどの季節菓子などがありますが、これらは値段も比較的安く、季節の行事と深く結びついていたり、日常の生活のなかに深く溶け込んでいるものが多くあります。


うぐいす餅
 京都には、たくさんの和菓子屋さんがありますが、いわゆるお饅屋さんと呼ばれて地域に密着しているのが餅菓子屋さんです。餅菓子屋さんというのは、お餅を作っているところで、そのほかの餅菓子やおこわなどを、臼、杵を使って仕上げます。「餅は、餅屋で」という専門化が図られていて、組合も餅菓子組合と京菓子組合があり区別されています。東京では、こういった区別がなく、和菓子屋さんがおこわを作ることがあるようです。

  餅菓子のひとつであるお団子は、唐のお供え物のお菓子である「歓喜団(かんきだん)」から、その名前がついたようです。お団子には、丸めたお団子といわゆる串団子とがあります。
  
・花見団子

上新粉の花見団子
 お店によって、上新粉(米粉)で作られているお団子と、「こなし」あるいは「あんこ」のものがあります。写真のような上新粉のお団子は、大体において赤・白・緑の三色の場合が多いのですが、これは花(桜)と草を表す春の色で、ひな祭りの時の「ひし餅」とまったく同じ色使いであることがわかります。お茶席では、上新粉のお団子は用いられることは少なく、ほとんどの場合、「こなし」か「あんこ」のものが供されます。「あんこ」の場合は、赤・緑・黒(餡子の色)の三色だと、花・草・大地を表しているものと考えられます。これらは、黒文字を使って、軽く手を添え、串から一つずつはずしていただきます。

・みたらし団子

四つのみたらし団子
 京都は下鴨神社の御手洗(みたらし)川から名をとったといわれています。神社境内の茶店で供されていて、五つ団子の場合は、人間の五体を表しているともいわれますが、神社内にある湧き出る泉の水玉を模したものともいわれています。四つ団子の場合でも、頭の一つがほかと離れているのは、お団子を焼く時に、渡した金棒にのせて安定するように工夫された結果のようです。

・茶団子

茶団子

しんこ(ひねりもち
 京都では銘茶の産地である宇治の茶団子が有名です。

・新粉餅(しんこもち)
 上新粉を材料とするところから「しんこ」と呼ばれるようですが、「ひねりもち」ともいっています。もとは、江戸時代の旧暦六月十六日に幕府が行なう吉祥祝い(災いを除け福を招く伝統の行事)のときに用いられた「寄り水」というL字型にねじった黄色と白色の「しんこもち」であるといわれています。そのねじった形が糸のかせに似ているところから、京都では「白糸もち」と呼ばれていた時代もあるようですが、今では「寄り水」という名も「白糸もち」という名も残っていません。現在「しんこ=ひねりもち」は、白色のものと、ニッキを使った茶色、お店によっては抹茶の緑色のものがあります。

・大福もち

豆大福

栗大福
 江戸時代に、「つぶあん」あるいは「黒砂糖あん」の入った大ぶりの餅菓子のことを、それを食べると満腹になったことから「腹太(はらぶと)もち」といい、またその形から「鶉(うずら)もち」とも呼んでいました。それを少し小ぶりにしたものが「大福もち」で、天秤棒にかついで売り歩く「振り売り」が評判になりました。冬場は七輪で焼いて供していた様子が江戸の風俗画などに残っています。最近は、その種類も増え、「豆大福」「よもぎ大福」や、大きな栗の入った「栗大福」、はたまた「いちご大福」なるものまでが出てきています。使われる「もち」は、関西では餅をついてお砂糖を加えたものですが、関東では求肥を使うことが多いようです。これは、気候の違いによるもので、求肥の方が乾燥に強いからだと思われます。
・やきもち

焼きもち
 京都では上賀茂神社門前のものが有名です。お餅が材料なので、日をおくと固くなりますが、そういう時は炙っていただきます。

 名物といわれるようなお団子やお餅などは、ほとんどの場合、お寺や神社の門前にあった茶店で供されたものから始まったものです。名物のお菓子があることは、参拝者の楽しみのひとつとなり、評判をよんでいったと思われます。

協力:大極殿本舗・六角店「栖園」 京都市中京区六角通高倉東入る南側
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