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京町家再生研究会
小島 富佐江(再生研究会理事長)

京町家の保全・再生

 研究会発足当初から、私たちは表記のテーマを全うすべく議論を重ね、具体を示すための活動を続けているが、ここ数年様々な取り組みが行われるようになり、このテーマをもう一度考え直してみたいと考えている。そのために本年度後半には再生の設計手法の検討や町家の新しい動きを勉強する集まりを企画している。

 私自身これまで町家の保全・再生については、まずは継承ありきということを重視し、そのための手法をのみ追っかけていたような気がするが、昨今、継承の先にあるもの、継承者とは誰なのかということに立ち止まっている。町家を継承するためには次に渡すべき誰かの存在が不可欠であるが、果たして血縁、身内というのが正しい選択なのかどうか悩ましいことである。京町家再生研究会が発足して22年、その間に様々な継承を見てきた。親から子へ財産が相続されるのは正しいことで、親子兄弟、相続権者で順当に相続がおこり、町家が継承されるという当たり前のことが最近になって難しくなっているということがわかってきた。そのためにはどのような対策があるのだろうか。

 9月例会では継承をどのように進めるのかということで、「信託」について学ぶ機会を得た。講師は税理士の竹仲勲先生。竹仲先生がこれまで検討されてきたことをお話しいただいた。

 再生研でも以前から継承のための方策として「京町家の証券化」の検討会に参加する等、新しい継承のあり方を探っているが、ここ数年注目を浴びてきているのが「信託」という手法である。竹仲先生は遺言よりも信託の方がわかりやすく効果的だとお考えで、私たちの考えている相続人=血縁だけでなく選択肢も広がるということかと理解した。冒頭に「信託とは、信頼のおける人に自分の財産を託し、一定の目的のためにその管理・処分をしてもらうことをいいます」という信託の定義がでた。この一文が信託を理解するための大切なポイントではないかと思っている。ここにある「信頼のおける人」が、私たちが町家を託したい人のことである。単に血縁、親子ではなく信頼のおける誰かである。相続によって家が売却され壊されていくという現実、お守りが出来ない、住まない、遠方であるということで多くの家がなくなっていった。家を残したいと思う居住者にとって、相続では解決できない問題があり、この「信託」が今後どのように運用されていくのか興味深いセミナーであった。もちろん私たちも継続的に検証をしていかないといけないテーマである。

 様々な要望に対応できるオールマイティーがありえるのかどうか、期待されることがどのようなものであるのか、しっかりと考えていきたいと思っている。

 9月の下旬には東京で「京町家の魅力と活用方法」と題したセミナーを開催した。あわせて不動産情報センターのメンバーによる相談会を開催した。これまでも町家を探していらっしゃる方々は多く、その対応は情報センターが担ってきたが、昨今、東京方面のご相談が増えてきたことが今回の相談会を開催するきっかけとなっている。ただ、東京から住み替えをされるということだけではなく、京都ご出身でご生家があり、その家をどうしようか考えているという方もおられ、一昨年のご相談から京都のお宅を改修され現在はお子さんがお住まいになっているといううれしい事例も生まれている。(京町家通信Vol.94

 当初会場の都合で募集人数を30数名としていたが、あっというまに満席になり、急遽大きな部屋に変更し、その倍の人数を収容できるようにしていただいた。会場は東京八重洲にある立命館大学東京キャンパスにご協力を頂いた。立地のよさもあり、約60名の募集に対してもすぐに満席の状態となり、セミナー終了後もそのほとんどの方が相談会に参加されるということに驚き、約半数の方が町家の購入を希望されているということにもさらに驚いたようなことである。いまさらに京都ブームということではないとは思うが、町家という建物の底力にびっくりしている。

 文頭に述べたように、私の継承に対する考え方を大幅に変えさせる事実を目の当たりにし、ますます誰に継承するのか、その方法は?ということに興味を深くしている。

 近年空家の問題が大きく取り上げられ、気がつけば私たちの周りには町家であれ、長屋であれ、共同住宅までもたくさんの家が空いているという事実に気づかされる。京都市も本年度から「空き家対策」に積極的な取り組みを始めている。9月の東京での相談会がこの解決策の一端を担うのだろうかとふと考えてしまうが、東京からの住み替えがおこるとすれば、東京に空き家が増えていくことになってしまい、京都の空き家が減少することは他の町の空き家が増えるという、なんとも複雑な気持ちにさせられる問題ではある。先日『「空き家」が蝕む日本』(長嶋 修 ポプラ新書)を読んだ。新築住宅の着工数、消却年限など、多くの問題が浮き上がってきていることがわかる。日本には先達のすばらしい知恵の結晶である木造の文化が脈々とあり、いまも厳然と息づいているのに、なぜこんなことが起こってくるのかということに愕然としている。今更ながらではあるが、このようなことを今以上に引き起こさないためにも、町家の保全・再生の動きをより活発にさせていきたいと思った次第である。

2014.11.1