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京町家作事組

T邸改修工事


設計:木下龍一/施工:大下工務店


今回塗り直した火袋
 今回の対象は、昔米屋さんだった102歳の町家。南隣の店棟と北隣の表借家と繋がっていたが、独立した2世代家族の同居する仕舞多屋に改修された。大宮通りの間口3軒半、奥行き7軒半、浅い前栽を挟んで裏の路地に接し、南西方向に2間×2間半の土蔵を備えている。施主夫妻は、昨春東京で開催された住みたい知りたい京町家セミナーに参加され、作事組の大工による、伝統構法で町家を改修する話に熱心に耳を傾け、仕事を依頼される事になった。建物は1列3室、総2階型の立派な町家である。調査すると、経年劣化と柱の不同沈下や、北西角に増築したコンクリートブロック製の浴室の漏水と、それによる蟻害の為、通し柱や桁が腐朽、破損し、床が約75cm程落ち込んでいた。大屋根の瓦も当初のまま受け継がれていたので、天井のシミが甚だしく、屋根瓦の葺き替えと構造改修が急がれる状態であった。

 調査結果を基にして改修方針を組み立てる中で、浴室の位置変更と水廻りの刷新と、電灯線やガス管、排水管の更新が最低限必要とされてきた。又一方で、東京セミナーを主催した、京都市景観まちづくりセンターのファンド助成を受けて、外観の修復を実行する事になった。計画当初、長男夫妻がそこに住んでいたが、昨年夏の祇園祭山鉾巡行の日に、男の子が産まれることになり、それを機会に仮住まいに引越され、秋に着工の運びとなった。

◎構造改修
 木造軸組の中、側柱はほぼ全部と、ニワ境の大黒柱を除く柱、総計25本を根継ぎ揚げ前をし、且つ7本を新柱と取り替えた。南北6cm、東西に3cm傾いた架構を歪み突きして、架構のタチをほぼ正常に戻し、土壁をつけて安定させた。前もって雨水の流入を防ぐ為、道路側の葛石や側柱下の礎石を正常な高さに据え直した為に、時間と手間をかけた構造改修は無事完了し、ファンドや友の会の見学会も開催する事が出来た。

◎改修のポイント
 外観は整理中のアルバムから見つかった古写真により、大戸口上部のムシコ窓を復元し、半間おきに通し腕木を差し渡した頑丈な表庇と、大戸や出格子窓、戸袋を修復し、土壁部分の色大津壁を塗り直した。当初写真のように、黒大津にする予定だったが、施主のたっての要望で、釡座町家に習って黄大津壁に変更した。
 一方裏側では、痛んだ軒桁を新材で継ぎ、管柱で支えて土壁や戸袋を付け、数寄屋造りの化粧軒裏を修復する。路地を限る高塀は、崩れた箇所を撤去し、新しく板塀を建て、塀瓦を修理する。前栽のツクバイや景石を整え、シュロ竹を剪定すると、再び光が軒裏を照らし、風にそよぐ庭木の景色が蘇るだろう。
 トオリニワは、大戸と中戸を繕って吊り直し、土間をタタキ、内玄関から奥を上げ床にした。システムキッチンと風呂を新設、側壁を中塗り仕上げで火袋の上まで塗り上げると、野天井からトップライトの光が柔らかく降り注ぎ、洗面脱衣室の中まで光を分配してくれる。居住者が2世帯重なる時や、来訪客の為、2階の表6帖をフローリング貼の居間にし、その奥3帖の中に、洗面化粧室と便所を新しく付け加えている。このため2階座敷8帖と中の間6帖が、下階と独立したスペースとして使い易くなり、2世帯同居の京町家に再生される事になった。

修景後の外観

2階表6畳

2階表の間洗面所

木下龍一(作事組理事)

2014.5.1