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京町家再生研究会

未来に開かれた町家の改修

中江 哲

中江邸は作事組で軸組構造改修の部分を担当しました。
その後の内装計画は施主の方で進められていました。
今回、施主の中江様より、ご寄稿いただきました。

京都で家を探していた
土地を買って新築するのではなく、町家を買って改修して住もうと考えた。ささやかながら一定の資金を投入するのだから、自分が住まなくなったあとにも建物が残って街のためになるほうが良いと考えた。そこで家探しを始めたのだが、これが困難を極めた。4 年以上探して、幸運にも西陣の地に私でも手の届きそうな小さな町家を見つけることができた。

さて、いかに改修するか
近年、町家がコマーシャルベースに扱われ、本来の在り方から離れた改修も多いように感じる。また、大型の伝統町家のように、すべてを昔のままの町家にもどす、という改修は今回のような小さな町家にはなじまないと思う。椅子式の生活に慣れている我々が全室畳の部屋で生活をする、通り庭の土間を炊事場として段差の問題や冬の底冷えを我慢して昔の生活をまもる、などはやや無理があるのではないだろうか。その地域の風土・時代のくらしを伝承された人々の知恵に敬意を払いつつも、もうすこし冷静に普通の家を改修するような中立のスタンスで生まれた和洋・新旧取り混ぜた折衷性に、結果として町家の同時代性が立ち現れることを目論んだ。

町家
築140 年ほどの町家の改修である。元の建物は間口3 間、奥行き4.5間。厨子2 階建て。もともと南北とも連棟であったが、南側が解体され新しい住宅が建っている。北側に通り土間、奥に2 間×3 間の空間があり、もとは織屋建てと思われる。職住一致の、おそらくは貧しい機織り職人の住居と思われる小さな町家である。

空間イメージ
建物が小さいため全体でワンルームのような住まいを考えた。イメージとしてはチャールズ・ムーアのシーランチが近い。一方で、町家のもつ街並み(オモテ)との関係、建具や襖を開け放つと奥まで見通せる奥行きのある空間構成を大切にした。中江邸は作事組で軸組構造改修の部分を担当しました。その後の内装計画は施主の方で進められていました。今回、施主の中江様より、ご寄稿いただきました。

改修
一列三室型の空間構成をそのままに、通り土間を玄関・キッチン・トイレ・洗面に改修し、一番奥に浴室を増築した。過去の改修で、トイレと浴室が庭に増築され庭がほとんど使えなくなっていた。古い町家によくある場当たり的な水場の改修部分を整理し、半分残して書庫として活用した。街並みに面する出窓は後の改築でつけられたもので、格子も伝統的な意匠ではない。しかし、すでに街の景観の一部になっていると考え、今回は補修にとどめ、いっさい手を加えていない。表の間はわずか三帖ではあるが、将来において街との関係性を持った、いわゆる「住み開き」を可能とするしつらえとした。一方で、部屋が独立せずひと続きの空間になるように2 階の床を取りはらい、奥への連続性が感じられるものにした。

構造
いわゆる建築条件付き物件であったため施工者が決まっていた。不動産会社と交渉し、構造だけは、伝統軸組構法の技術を尊重し健全な状態に戻すため、作事組さんにお願いした。既存は、表の間が1 間半、次の間が1 間だったが、表の間を1 間、次の間を1 間半とし、それに伴って柱・土壁の位置を動かした。町家のもつ構造形式の先端性(柔構造、基礎、施工性、可変性、ローコスト)が現代でも十分に通用することを実感した。

町家の温熱環境
新築住宅では高断熱・高気密が現在の潮流であるが、もともと断熱なし気密なしの町家では、改修後の性能は「中断熱・中気密」が限界であろう。屋根と床下は、全面的に断熱をおこなったが、壁に関しては真壁造りの土壁のため半分程度しか断熱ができていない。欄間部(建具上部)に真壁を生かした断熱壁として、既存土壁に真空断熱材(厚さ5 ミリ)を貼りその上にさらに土壁を塗り真壁に納めたディテールを考案し、試験施工を行った。現在、京都大学小椋・伊庭研究室により、温湿度の計測とエネルギー消費の分析を通年で行っている。まとまった折には、あらためて報告させていただきたい。

中江邸見学会

京町家作事組 設計担当理事 冨家裕久

2018 年12 月22 日(土)に中江邸完成見学会がありました。
採光や視線の抜けを確保するためには大きな開口部が必要となりますが、開口部面積が大きくなると熱貫流の問題が出てきます。そこで大判のFIX ペアガラスを採用し、隙間と熱貫流の低減をはかり、冬場は窓際に座ってもコールドドラフトは感じないそうです。また空調には輻射冷暖房を採用され、大きなラジエーターが元織屋建であった吹抜空間の間仕切り位置に設置してありました。吹抜けには通常の空調では温度管理が難しいと一般的に言われていますが、輻射熱であれば床暖房などにもあるように温度管理に効果がでると言われています。また吹抜から冷気がおりてくるのを防ぐため、キャットウォークにシフォンの布を敷いていらっしゃいました。
こちらの建物の改修履歴の中からできた産物ですが、妻壁が一部二重に作られていて、今回の改修でもその壁はそのまま利用されることになりました。二重である土壁の熱容量は大きく、断熱材の設置はないようですので熱貫流そのものは大きいのでしょうが、一度暖まると冷めにくく、またその逆でもあるので、長期間安定して温度管理しながら生活をしていると室温の安定につながるかと思いました。また土の質量が多い分、土壁の湿度の吸放湿性も性能が望めそうでした。
目新しい試みとしては真空断熱パネルを小壁ですが埋設し、土壁仕上げとされています。通常の土壁に不織布で巻いた真空断熱パネルをはめ込み、手前に竹ひごで下地を作って不織布と竹ひごで土を定着させる構造です。大面積での課題はあるかと思いますが、断熱埋設土壁の熱貫流の性能が気になるところです。壁体内結露などどのような結果が出るのか大変興味深いです。

2019.3.1