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京町家友の会


新たな年に

町家のとおりにわ
小島 富佐江(京町家友の会)

 町家のとおりにわは段差があり、寒くて便利の悪いところといわれ、多くの家が床をはり、天井をつけてあたたかい「東京式だいどこ」に改修されました。でも、最近またとおりにわのよさを見直し、お家を直される時はとおりにわを復元されるところも出てきています。表から奥までつづく土間。1本の通り土間は、店の間、玄関、はしりと平行する部屋の用途に添うように使い方が変化します。とても機能的で、プライベートでありながら、人の出入りが当たり前の場として便利な空間です。家の内側であるのに、気温は外気とかわらず、天井が高く風がよく通るぶん体感は外気より少し低く感じるように思うのは、寒がりだからでしょうか。夏はその分ひんやりとしていて、町家ならではといったところですが。

 かつては「おくどさん」での煮炊きの火があったため、冬はそれほど冷たくなかったと聞きますが、残念ながら「おくどさん」を取払いガスコンロにしたため、ほんのりとあたたかい空気は失せてしまっています。そのかわりに冷蔵庫は不要なぐらい、野菜をはしりに置いておいても冬の間は傷むことはありません。よっぽど寒いときにははしりにため置いた水が凍ることもありますが、最近は暖冬のせいかそこまでの寒さはまれなことになりました。

 とおりにわは季節の風を常に感じるところです。お家によっても違いますが、天窓があり、光も差し込みます。この光が季節によって変わります。これからは春に向かって弱々しかった日差しが日に日に明るくなり、ダイドコまで差し込むようになると春も本番です。

 お日さんの光はとてもあたたかで、ありがたいことがよくわかるのがとおりにわです。こごえていた土間に光が差し込み、じわじわとあたりがゆるみだします。食事の支度をしていても、2月と3月では大違い、足元の冷たさが和らいでいるのがよくわかります。

 とおりにわの便利さは「はしり」の役割が大きく、土間の使い方は本当に良く出来ていると感心します。特に近郊から届くお野菜の扱いはこの「はしり」がしっかりと役割をはたしてくれます。ひとかかえもあるような大きな水菜、土のついたおねぎ、大根など根菜類、お家のなかでは処理が大変ですが、土間ならバラバラと落ちる土は後で水を流せばすっかりきれいになるので、汚れることを気にせず処理することができます。年末のお煮しめやカブラの切り漬け、お鍋のための水菜やおねぎの準備はらくちんです。

 表通りから戸をあけて入ると店の間があり、そこを通り抜けて玄関にこられるのが普通のお客様ですが、かって知ったるところとばかりに奥までずっと「侵入」できるのが、ご用聞きさんと職人さんです。残念ながらご用聞きさんは近年こられなくなり、職人さんのみがとおりにわをフリーパスで通行できる人たちです。ただ、最近は場の感覚が違うためか突然奥まで入ってこられる来客もあり、こちらもびっくりしてしまうことがよくあります。のれんの奥はプライベートな場という決まり事ですが、今は通用しなくなりました。


おひなさま
 冬の「はしり」は根菜類が中心、里芋、海老芋や丸大根、かぶら、金時人参等、体が温まると言われています。千本菜とも呼ばれる水菜や白菜、冬のおねぎも甘くておいしいものです。春の光が差し込むと、ふきのとうやせり、うどなど山の香りが届きます。

 京都のおひなさんは旧暦、4月3日ですが、おひなさんのお膳にも春の食材を使います。赤貝とわけぎのてっぱい(ぬた)やみしじみを甘辛く炊いたもの、おひたしは菜の花、桃の花も露地ものがでてきます。おひなさんのお菓子、ひちぎりが届くのもとおりにわ。のれんをくぐって、おまんやさんがきてくれはります。  春のとおりにわは明るく、気持ちのいい場所になります。「はしり」に立つのも苦にならず、たけのこを大きなお鍋でゆがくのも「年中行事」の一つです。

(2016.3.1)
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