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京町家友の会


おひなさまのころ

おひなさまのころ
小島冨佐江(京町家友の会事務局)

 梅の開花があちこちで聞かれるころとなり、寒い寒いと縮こまっていたからだの緊張がじわじわと解けだすようです。節分、立春、初午と暦は着々と春の知らせを記しています。あと少しこの寒さをしのぐと春がもっと近づいてきます。梅から桜へとお花の便りが気になるころでもあります。

 日差しは春のおとずれを感じさせますが、まだまだ冬のなごりがあちこちにある頃、おひなさまのお節句は到来します。3月3日のおひなまつりはようやく梅が咲きかけたころ。桃の節句とは程遠いように感じますが、カレンダー通りとはこのようなことでしょう。ただ、おひなさま商戦は時をまたないようで、今年、お正月を過ぎたころにおひなさまの段飾りがデパートの玄関に飾られていてびっくりしました。テレビでもお人形屋さんのコマーシャルがたくさん流れるようになり、とてもせわしないことです。季節の先取りを少しするのは、しつらえや着物など京都ではあたりまえのことで、時候とぴったり一致させるのはちょっともっさりしているといわれます。でも、近頃のせわしなさはどうしたもんでしょう。なにか追い立てられているようで落ち着きませんが、そんなことをあれこれ考えているうちにおひなさまのお節句がめぐります。

 おうちによって、おひなさまは様々。古いお内裏様、立派な段飾り、お公家さん風、コンパクトなケース入り、一刀彫りなど、どれをとっても美しくてかわいいお人形さんたちです。箱からだして、ひとつづつ包みを外し、それぞれの位置におさまると一挙に部屋の中が華やぎます。

 こどものころはお友達をよんで、おひなまつりをしてもらいました。逆におよばれすることもあり、女の子のはじめてのおよばれはおひなさまの会だったというのが多かったのではと思っています。ごちそうはばらずし(ちらしずし)、カレイの干物、赤貝のてっぱい(ぬた)、みしじみのたいたん(しじみを甘辛く煮たもの)がお決まりです。それに菜の花のおひたしやてまり麩のおつゆなどをつけて、おひなさまのお膳ができあがります。お菓子はひなあられや菱餅、かわいいおまんじゅうをつめたお重などもあります。ひちぎりというおひなさまをかたどったお菓子もあり、赤い色が女雛さま、白い色が男雛さまでしょうか。緑の色もあるのですが、これはどなたやら、はてさて。かわいいお菓子がならびます。お雛様のかまぼこもかわいくて、楽しいものです。てのひらにのるほどの大きさで、ついついお店に並ぶと手が出てしまいます。私が結婚した頃は、錦市場の中にあったかまぼこ屋さんにおひなさまのかまぼこが並びました。常は地味なお店でしたが、赤や黄色のかわいいひなかまぼこは一年に一度の楽しみでした。残念なことにそのお店はもうなくなってしまいました。さびしいことです。

 おひなさま、「ひいな」という言葉は「かわいい」「ちいさい」という意味をもっていて、とにもかくにも「きれいな」、「かわいい」ものをたくさん並べて女の子の楽しい一日を過ごします。ただ、お節句をすぎて長く飾ることはあきませんといわれ、その日が過ぎるとおおいそぎでと片づけをします。

 京都では、もともと旧暦でお飾りをされるお宅が多く、私のうちでもおひなさまは4月3日でした。このころになると露地物の桃の花が手に入ります。桜にまじってお花が咲いているのを見かけたりもします。3月3日に桃のお花をと思うと温室育ちがほとんどで、少々ひ弱な感じがします。温室育ちのお花はさわるとぽろぽろとつぼみが落ちて、「あーあもったいないなあ」と思うことがあります。そんなこんなで、旧暦のおひなまつりになっているのかなあと思ったりもしています。ただ、近頃はカレンダー通り。お菓子もお花も3月3日が主流です。4月におひなさまをと思うと、お花は自然のものがありますが、お菓子は別誂えになってしまうので、どうしたものかと考えてしまいます。ただ、京都ではお菓子屋さんはいろんなことに答えてくださるので、4月のおひなさまにもひちぎりは大丈夫です。それも京都のいいところかもしれません。

 あかりをつけましょぼんぼりに お花をあげましょ桃の花
 五人ばやしのふえたいこ、今日はたのしいひなまつり
 春のおとずれとともにお祝いのできることを感謝して
 お白酒で乾杯!

(2014.3.1)
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