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京町家友の会


住まいと四季

住まいと四季
松村 篤之介 (京町家友の会会長)

  今年も、予定通り9月30日、「模様替え」を終え、すっかり冬のしつらえになりました。今回も出入りの大工さん、それに手伝さん二人の力を借りました。この人達は、最近は当方の建具などの所番地を殆ど承知してくれていますので、結構スムーズに進行し、朝から始めて正午前に終了しました。建具は葦障子・簾から襖・障子へ、敷物は藤筵・網代から絨毯・緞通へ。蔵の出し入れが大変なのですが、真に要領よく、ことは運びました。最後は座布団、暖簾を替えて終わり。毎年のことながら、世の中の所謂「衣替え」に合わせて、家のしつらえを替えることを続けています。そして、この「模様替え」を実行しつつ、季節の移り変わりを身をもって感じ取っています。

 さて、この「模様替え」は、6月早々と9月末の日柄であり、年二回の仕事ですが、これに加えて毎月行なっていることがあります。


 その昔、亡父が在世のとき、月末近くなると、未だ学生だった頃から私に必ず声がかかりました。「あれと、これとを蔵から出して来て」との指図です。学生は学生なりに、他にすることが沢山ある私は、本音はいやいやでしたが、それでも一時を父のあれこれを聞きながら床の間の軸物の取替えや、違い棚の置物の出し入れを致しました。かくてこうしたことは、父が亡くなってからも、毎月月末には当然のこととして現在も続けてきています。

 例えば、10月に向かっては、9月掛けの涼風を呼ぶ「瀑布」や「村雲月」をおろして、秋本番「清秋晴日」「通天秋晴」「豊年」を掛け、「紅葉狩」「深秋」などに移っていきます。画題と併せて作家や絵の大きさなどが頭に入っていないと、そこにそぐわないことになります。又置物も「鹿」「栗と栗鼠」などの作品を出してくるとか、季節に合わせた風景を用意したいと思っています。

 これはこの季節に掛けるもの、これの仕舞い方はこうしてするもの、あれはこうした経緯があったので心得ておくこと、等々一々何やかや父は言っていましたが、こちらは余り聞く気がないので、私の頭の中にはしっかり入っていません。今から思えば、もっと性根を入れて聞いておけば良かったのにと残念に思うことが多々あります。後悔先に立たず、今からではどうにもなりません。

 お陰様で、月々の季節の変化をちょっと先取りしながら、四季折々の動きを、家での暮らしの中から真っ先に感ずる習慣が身につきました。そして、草花好きの家内が、床などの花生けを受け持って、しつらえの一端を分担してくれています。

 私の家は、割りに来客の多い家ですが、来られたお客様が床の間を見て、時には声を出してまで喜んで戴けると、これ以上の果報はありません。こうしたこともお持て成しの一つだと信じています。

 日本には四季があります。こんな恵まれた国、環境は他にはありません。こうした背景で日本人は生活しているのですから、こんな幸せなことは無いと思います。京町家で日々を送って八十余年、季節を織り込んだしつらえの中で生活をすることの仕合せを、こころから味わっている昨今です。

(2009.11.1)
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