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その古びた木の門扉は、今どき珍しい閂(かんぬき)を外して使います。開くまでに4プロセスを経ての、手間のかかるこのやり方に慣れるまで、これで4年。ここに長年住んでいた、主人の叔母を見送ってからになります。 叔母は若い時から肺を病んでいましたので、中京より空気のきれいなこの衣笠の家で療養をしていました。以来60年、こよなく庭を愛して暮らしておりました。 ![]() |
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![]() ほとんどしゃがんでする疲れる地味な仕事ですが、実はこの庭のステキさを知るのは、ここからです。目線が下がって初めて見える世界、それは一面緑で、流れる空気が深山幽谷の中のように清々しく、濃いのです。苔から立ち上る香りを持っていて、地上50cmまでの「苔気流ベルト」に漂っています。その中で、蝉の抜け殻をナウシカに出てくるオームのように見ながら、草引きをします。スミレもミズヒキも増えすぎぬよう、山椒や松の未生は移してやります。抜きたい草なのか、とっておきたいツルリンドウの葉なのか、小さな草をみつめる小さな世界。「それは大変だけれど、私が元気でいられるのもこの庭のおかげ」と、叔母は庭をしみじみ眺めていました。 |
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![]() 春はヒトリシズカの花で始まります。ツユクサ、アジサイ、オカトラノオ、クスノキの芽吹きと落葉。紅いユスラウメの実。キキョウの蕾が開くと、もう立秋です。 数年前この家を改修した時に、下水道の工事もしました。小型シャベルカーを使えば難なく済む作業でしたが、排気ガスで草木を枯らしてはいけないと、炎天下、地下2メートルを20メートルも掘り進んでの大変な工事に切り替えてくださいました。今でも言い尽くせない感謝の思いでいっぱいです。 子どもと行ったキャンプ先で拾ったドングリが芽吹き、この庭に植えました。大きく伸びて、新しい木陰を作ってくれることを楽しみにしています。 |
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(2007.9.1) |
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