• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
はじめに京町家再生研究会京町家作事組京町家友の会京町家情報センター
町家の手入れの仕方─vol.2

梶山秀一郎(作事組理事長) 

●地震は大丈夫?
 大丈夫とは言い切れませんが、地震の影響を受けにくく粘り強い構造です。
 基礎と柱がつながっていないため、阪神・淡路大震災のような直下型の地震に対しては免震構造になり被害は少ないと思われます。一方東海地震や東南海地震のような横に大きく揺れる地震に対しては揺れて力を吸収しますが、限度を超えると倒壊の可能性はあります。しかし仕口が破壊されない限り、柱や梁(横材)と壁の粘り強さで一気に潰れることはなく、外に出るゆとりはあると思われます。事実、記録に残る地震被害は、直下型では今の木造の構造特性に近い蔵が倒れ、遠隔地の強い地震では町家が倒壊しています。つまり江戸時代の町衆は固い箱形構造の蔵と、柔らかい軸組型構造の主屋という地震に対する構えが異なるふたつの建物を持っていたことになります。当時の人には「蔵は家財を守り、主屋は人を守る」と言う認識があったのだと思います。

●改修は建てる程かかるって本当?
 改修だけであればそれほどかかりません。
 傷みの程度によりますが、イガミ突きや柱の根継ぎあるいは傷んだ梁の取り替えなどの構造改修、瓦の葺き替えや緩んだ床組のやり替え、壁や天井の修理、及び建具やふすまの修理あるいは畳の修理と表替えなどの改修一式で坪当たり20万円〜30万円でできます。実際の改修例でもっとかかっている理由の一つは傷みが進行していて、屋根の垂木やモヤの下地まで傷んでいたり、土壁が荒壁まで壊れてしまっている場合。二つには大がかりな間取りの変更をともない、構造の組み替えが必要な場合。三つには便所や浴室などの水回りの改築やはなれの増築や改築(建替え)がある場合。
 特に水回りは設備工事の費用が集中的にかかるのと平屋で面積が少なく、屋根や基礎のコストが2階建てとほぼ同じだけかかるということから、建替えの場合、坪当たり、室の部分の倍程になっています。
 費用を抑えるためには住み手の方と作り手が暮らし方についてとことん話し合って本当に必要な改修を見極めることだと思います。

●町家で今の快適な暮らしをするのは無理ですか?
 今の快適な暮らしは難しいですが、それを求める前に町家の快適性を見直してみることが大切です。
 暑い、寒い、暗い、狭い、プライバシーがないといわれてきた町家です。そのほとんどはモダニストのデマだと思いますが、現代はそれらの難点を克服する手だてがいろいろと用意されており“昔のままがよい”というだけでは納得してもらえないかも知れません。しかし安易にクーラーや壁などに頼る前に町家の設計を押さえておく必要があると思います。個々の問題については続編に譲るとして、ここでは基本設計を考察してみます。

イ.暑い・寒い
 日本の気候を特徴づけるのは四季と高温多湿です。取りわけても京都は内陸の盆地特有の気象で寒暑が厳しいことは周知の通りです。その設計条件に対する町家の基本設計は冬の寒さはまず着込むことにより体熱の発散を押さえ、気密性を高めることが難しいため、火鉢や炬燵などの局所暖房で凌ぐというものです。
 一方夏の暑さに対しては厨子2階と小屋裏を断熱層にして1階の生活空間に熱が侵入するのを防ぐと共に軒を深くして日射を遮り、かつ簾で熱線の侵入を防ぐ。また体熱の放散を促進するため、オモテからウラまで建具を開放して風を流すというものです。また設計の不足を補う手だてとして通りや前栽に水打ちをして気化熱効果で室内の気温を下げる。あるいは団扇や扇子で風を起こして体熱を放散するなどがあります。
  さらに感覚的に涼しさを得る手だてとして室礼、器、菓子および風鈴などを総動員します。簾や御簾および簾戸は見た目にも涼しげです。まさに夏を旨とすべしの工夫ですが、それだけではなくこの基本設計はカビやダニの発生を防ぎ白蟻を活躍させないためにも不可欠な配慮です。

ロ.暗い、狭い、プライバシーがない
 暗いについてはほの暗さや中庭、前栽およびゲンカンニワによる明暗の妙味を味わってもらうしかありません。
 狭いについてはミセ、ゲンカン、ダイドコ、座敷と大まかに機能分けはしながらも機能を重ね合わすことで商い、食事、団らん、就寝、接客、習い事、近隣とのコミュニケーションそして祭りの室礼などの用を果たした知恵に学ぶことが必要だと思います。
 プライバシーについては明治の初めに来日したモースが“日本の住まいにはプライバシーがない”と批判するイギリス人に対して“壁やドアがないとプライバシーが守れない程この国の人びとは野蛮ではない”と反論したのを今の私たちがどう考えるかということだと思います。

第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回