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町家の手入れの仕方─vol.1

梶山秀一郎(作事組理事長) 

 これから数回にわたって町家の手入れの仕方について、問答形式で連載していきます。本当は住み手の方から現に困っていることや悩んでいることを質問していただき、お答えするという方がリアルでよいのですが、すぐさま質問を挙げていただくのも難しいことだと思いますので、初めは想定問答でスタートします。そして回が進むなかで想定問答を読んで気づかれたことをご質問いただき、お答えすることにしたいと思います。話題が後戻りになってもかまわないので、充実した内容にしていきたいと思います。

 町家は作るときだけでなく守り続けていくときも住み手と作り手との協働でした。住み手、作り手がともに学びあいながら実用的な手入れの手引き書にしたいと思いますのでよろしくお願いします。

●町家ってどんな住まい?
 町家は事務所、店舗、住宅、工場と言った特定の目的(用途)にしたがって分別して作られる今の建築と違って、ちょっと見ただけでは用途も作られ方もなかなか捉えにくい建築です。でも、既成概念にとらわれずしっかり見つめ、耳を傾けるとその思想を語り始めます。それは住み手の思想であり、かたや作り手の思想です。住み手の思想をつづめて言うと「無事がなにより」であり、キーワードは「家内安全」「家運隆盛」「子孫長久」です。作り手のそれは「末代に恥じない仕事」です。そして今も昔も変わらないのが「より良いものをより安く」です。よりよい手入れをよりリーズナブルな費用で果たすためには町家を知ることが大事です。

●町家はどれぐらいもつの?
 適切なタイミングで適切な手入れをしていけばいつまでも持ちます。
 町家は江戸初期に基礎を掘立て柱からひとつ石(礎石に柱を載せる)に切り替えてから200余年間改善・改良を重ねて明治に引き継がれました。したがって随所に長持ちさせるための工夫が見られます。その主なものを箇条書きにします。

イ.傷みやすいところを手入れしやすくしてある
・井戸引き 井戸やハシリの裏は水がかかったり湿気たりしやすいので、土間から約90cmの高さに横材(梁)を入れて、傷んだら井戸引きから下だけやり変えられるようにしてある。
・柱の足元 柱の足元は土中の湿気や雨によって長年の間には腐朽する。そのときにその一本の柱だけを根継ぎできるように、土台や根絡みで柱相互をつながず独立させてある。
・屋根の軒 総2階や2階オクの間を座敷にするときは、壁を保護するために軒の出を大きくとる必要があるが、建てたときは大丈夫でも経年変化で軒が下がる。そのためにたるきを受ける出桁を腕木や桔木(はねぎ)で受けるようにしておき、軒が下がったときは桔ね揚げられるようにしてある。

ロ.本体を守る保護材を定期的に取り替える
・妻壁の杉板張り 妻壁は通常は隣家と重なり、わずかしか露出しないが、ロージに面するとき及び角家は妻面が露出する。その場合は焼き杉の羽目板を貼って土壁を保護し20〜30年ごとに張り替える。
・前包み 2階壁の下屋との取り合い部は雨がかかり壁が傷みやすいため、壁の保護のために前包みと呼ぶ板を入れ、傷んだらそれだけ取り替える。

●町家は今の木造住宅とどこが違うの?
 正反対と言っていい程なにもかも違います。今の木造住宅は在来軸組構法と呼びますが、仕口・継手の工法や屋根の架け方以外はその根拠を日本の伝統に持たない構法です。明治に取り入れられた西洋の構法が基礎になり、関東大震災以降に普及し、1950年に建築基準法で唯一認められる構法になりました。それと同時に町家の構法は今の基準に合わないと言う意味の不適格建築物になり、それ以降は建てることもできないし、大がかりな改修も合法的にはできなくなりました。

 町家の構法と今の木造構法の違いを一覧表にしてみます。
項 目 町 家 現在の木造住宅
形 態 細い柱と梁による虫籠様 箱に穴をあける
作り方 修練を前提にする 基準に従う
守り方 傷まない工夫と傷んだらそこだけ取り替えられるようにする 傷まないようにより強くして、傷んだらそっくり取り替えるか建て替える
再利用 解体移築も部材の転用もできる 考慮しない
地 震 揺れを受け流すか変形して揺れを吸収 固い壁で揺れに対抗
変形をさせない
防 火 家人と地域の出火しない用心、集団消火 家人の出火しない用心と自治体消防、燃えにくく燃え移りにくくする
部 材 細くて長い 太くて短い
仕口・継手 木材のみで組み合わせる。 栓、シャチで止め、締め直し及びバラシが可能 細工を簡略化して、金物で補強。締め直し、バラシは考えていない。

ねつぎ【根継ぎ】 柱の根元が損傷したときに、柱の足元を切って部分的に取り替えること。
はしり【ハシリ】 流しのこと。
はねぎ【桔木】 軒の出が大きいときに出桁を受ける天秤状の材。
ろーじ【ロージ】 奥行きが深い敷地の奥を活用するために設けられた通路。

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