自宅の改修 −地域の記憶も繋ぐ塩本 知久(京町家友の会)
この家には今、ウラの離れに両親が二人で住んでいる。我々は、普段は神戸におり、週末毎に実家で過ごしている。仕事の都合で、この1年のうちにはまた東京に転勤することになるはずなので、改修が終わった今もこの家を生活の拠点にはしていない。そんなことで、使い方を考えるのに余計に時間が掛かっているのかもしれない。 この家で一番居心地がよい場所は、改修前もそうだったが、天窓の下あたりのトオリニワだろう。ちょうどこの辺りに、座敷への上がり口や、水屋を置いた台などがあって、そこにベンチに腰掛けるように腰掛けて、吹き抜ける風を感じながら過ごすことができる。薄暗いトオリニワに天窓からやわらかく差し込む光が、黒い納戸や、今回塗り直された土壁を美しく照らしてくれる。トオリニワの壁は、改修前は白っぽい壁土だったが、その下から、建築当初の壁と思われる赤みがかった漆喰が現れたため、この色に戻してみたところ、土と木の温かさが気持ちをふっと緩めてくれるような空間になったように思う。 一方で、残念なことに、改修中、近世以前から当地で栄えた鋳物師集団に連なる旧家の町家などの立派な建物が、近隣で相次いで解体された。解体された町家から建具の一部を譲り受け、再利用させていただいたほか、新設した出格子と結界格子のデザインを、この町家の格子を参考にさせていただくことにして、工事途中で変更してもらった。地域の記憶を?いでいくことに、少しは役立てただろうか。 完成後の5月、改修を終えたばかりの建物を、お世話になった地域の方々へのご恩返しも込めて、地域のイベントに合わせて公開した。予想以上の人が入れ替わり立ち替わり、途切れることなくお越しになり、「うわぁ、うちもこんなんやった・・・。嬉しいなぁ。」等と言いながら見学してくださった。改修して良かったと、自分自身も、また最初は良い顔をしていなかった両親も、感じた1日だった。見学者の中には、町家の改修に興味があると言う人も。後に続いてくれる人がいたら、何よりの幸いである。 2017.9.1 |