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京町家再生研究会

作事組と情報センターの協働 ほんものの改修を考える

丹羽結花(京町家再生研究会)
 7月例会では千本丸太町近辺にある町家の改修現場を見学しました。浄福寺通から少し入った細い通りに面した長屋の一つ、1列3室型のコンパクトな町家ですが、通り庭の火袋がそのまま残っています。当日は左官のさくあんさんから土壁について詳しい説明もあり、暑い中、熱心に見学するみなさんでますますヒートアップ、その後、釜座町町家で一休みして、意見交換会をおこないました。

 今回は京町家作事組と情報センター会員の不動産屋さんがタッグを組んだ、ある意味画期的な事例です。「あれ、いつも一緒に仕事をしているんじゃないの?」と思われるかもしれません。現実は情報センター会員の不動産屋さんも自社や関連の設計、工務店で改修することが多く、その方針が作事組の基準とは異なる点も多いようです。当初、不動産屋さんから設計のみを依頼された作事組のホープ、南麻衣子さんが、改修についても作事組が監修できるように案件を持ち込み、協働の場を開くことができました。(南さんについては京町家通信99号693ページをご覧ください)不動産屋さんの工務担当者と作事組で数回の合同勉強会を経て、それぞれの課題、改修に関する考え方の違いが明らかになりました。

 不動産屋さんが作事組に改修を依頼しない理由はいくつかありますが、大きな問題は2点、一つは費用の問題(作事組で改修すると高いと言われる)、もう一つは建築基準法をはじめ、構造改修や仕様における両者の規程が折り合わないという問題です。

 費用については、どこにお金をかけるのか、という考えの違いがあります。作事組の基本は改修の段階をきちんと整理して優先順位をつけ、まず基礎の構造改修を伝統構法でおこなうことにあります。内装などあとまわしでもできるところは優先順位が低くなります。しかし、不動産屋さんにとっては物件を早くよい価格で提供することが重要です。マンションや建て売り住宅に慣れた消費者に、魅力的な空間をアピールすることも必要となるのでしょう。今、住むために必要であれば、見える部分にお金をかけることも少なくないようです。

 規程については、不動産屋さんにとって現在の制度、建築基準法に則った改修が優先となります。前述の考え方もあり、見えない部分の構造にお金をかけにくい事情もあるようです。必ずしも伝統構法できちんと直すことが前提ではありません。

 ほんものの改修、町家のためを思うと何が重要なのか、あらためて考える機会にもなりました。今、住めるようにすることは施主にとって大きな目的ですが、真の目的は100年近く維持されてきた町家がこれからも末永く続いていくようにすることです。「とりあえず使える」町家に改修することは将来的に施主のためにはなりません。設備や流行は変わります。構造改修をきちんとおこなったうえで、今の暮らしにあうように工夫するだけではなく、今後も使えるようなフレキシブルな町家改修をめざすべきでしょう。現代風の設備にお金を掛けるのではなく、追加の修繕がいつでもできるようにシンプルにしておくことにも意味があるのです。

 今回は議論の末、不動産屋さんが自社基準とかなり開きのある作事組の基準を受け入れた改修が実現しました。両者の協働、そして実現自体に大きな意義があります。

 一方、設計や改修段階については見学に参加した方々からも「通り庭の床を上げる改変は残念」「あとで手が掛けられる程度に直して流通させるのはいかが」などの意見がありました。「住んでいる者はある程度再生後のイメージが描けるが、一般的な流通町家では対象が不明でイメージが見えにくい」という住み手のコメントもありました。南さんも「価格を考えるならば、最小限の構造改修にして、あとは用途に合わせてセルフビルドでもできるようなやり方も提案したのですが」ということです。見栄えや設備はあとからいくつかのステップで工夫が可能、というような具体的なイメージをこちらから提示する必要もあるようです。

 一つでも町家を残し、健全な町家にしていくためには、次に引き受ける住み手をどのように探すのか、どの段階で改修するのか、そしてほんものの再生であることをどのように示すのか、などいろいろな課題があります。今後もさまざまな協働により、お互いが意見を持ち寄り、これからの活動の糧にしていきましょう。



2015.9.1