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京町家再生研究会

都心の住居の再生──中京区・Ks邸

末川 協(作事組理事)
姉小路通りの外観
姉小路通りの外観
 京町家再生研究会の宗田先生の紹介で、奈良にお住まいのKsさんより作事組にご実家の町家の改修のご相談があった。場所は姉小路通りの新町である。昨年、お母様が亡くなられ空き家になった町家を、定年退職された今春より片づけ始められ、その後に必要な工事についてのお問い合わせがあった。当面ご自身もご親族も住まわれる予定はなく、活用まで含めてご相談に来られた。いつも仲良くご夫婦で来られるのが印象的であった。

 建物調査の報告の後、町家の存続のために必要な改修内容と、活用のための改修内容を大きく整理して一案を提示した。さらに商業利用での改修範囲と住居として改修範囲での工事負担のケーススタディを行ない、それぞれの一般的な賃料の違いもご説明し、ご検討を依頼した。昨今、京都の町家の再生の広がりの中でも、烏丸の姉小路に近代建築を活かした商業施設が出来て以降、町家のお店の開業が西へ広がる地域である。今では商業利用、特に飲食での利用ならば町家が利益を生み出せる立地の潜在力がある。実際にご近所で駐車場になる瀬戸際だった町家が、借り手の力を借りながらお店になって生き残る事が出来たありがたい例もある。

 Ksさんは、これらの状況は理解された上で、工事負担は増えても、それでも元通りにご実家を再生する方針を選ばれた。住居として直される町家が、自立的に存続できるかに賭けて頂けた。Ksさんご自身が成人になるまで住んでおられた町家であり、親御さんが紙箱つくりの仕事をされていた町家である。ご親族とも協議の上、方針を決めていただいた。一般的な町家の飲食店利用では、やはり大掛かりに手が入る。いつか「元に戻せることも前提に」とは言い続けても、飲食利用を住居に戻す町家の改修は今のところ実現していない。その意味では、これから先「町家で飲食店」のシナリオが、いつか行き詰るかもしれない時代に向けて試金石になるかもしれない。

 この町家の一筋南に釜座町町家がある。その改修が行なわれ、京町家ネットの活動拠点が、移って1年。多くの町家が近隣でも改修されている。間接的にも波及効果があるように見える。再生研の理事が紹介の入り口になっていただいた今回の町家では、作事組が改修工事を行い、情報センターに「住まい手」を探していただく。この記事が出るまでに友の会での見学会も予定いただき、Ksさんにもご了解いただけた。

 例によって改修工事は大屋根の葺きなおしと揚げ前・イガミつきは必須項目、但し、Ks邸では妻方向のイガミが大きく、めずらしく不均一であった。西の側壁はウダツと側柱がずれながら隣家と接し、東の側壁は縦横の仕口の仕事が後からされていた。おそらく東西両側で切り分けられた町家の、元の規模を残すのが軒の深さと高さと思われる。ヒトミの上に天秤の腕木ではなくササラを姉小路に向け、1.3mの軒を出している。設計の不備や、工事のオーバーペースにたくさんお叱りも頂きながら、町家の由来のこともたくさんお聞かせいただいた。室戸台風で飛ばされた3階を増築した跡があること。元の水廻りや井戸や漬物置き場の場所。最後まで空けてあった鬼門のこと。大切に残したい座敷の縁先の増築の由来。今も残るお祭りの幕などなど。
火袋の復旧
座敷と小さな水廻り
 祇園祭の山鉾巡行にはいくつも見所がある。鉾の辻での集合、くじ改め、大通りでの辻回し。加えて、新町通と姉小路通りのクランクの通り抜けが一番の楽しみという方もおられる。この町家のこれからの住まい手が、オモテの軒に幕を掛け、多くの人を受け入れ、2階の高欄からすこし斜交いに山鉾を見ながら、特別な一日を堪能していただければと願います。

2011.11.1