• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家再生研究会

金澤町家改修の試み -ギャラリー+NPO事務局

内田康博(再生研幹事)
渡辺木材店 ファサード
渡辺木材店 ファサード 袖壁がない
   今回は、金沢での町家再生の試みについてご紹介させて頂きます。2009年10月16日(金)から18日(日)にかけて、第3回全国町家再生交流会が金沢にて開催されました。この機会に、NPO法人 金澤町家研究会事務局がおかれ、9月に改修を終えたばかりの渡辺木材店を見学させていただきました。金澤町家研究会は2005年6月に設立され、現在の会員は121名。2008年11月には町家改修の技術的な相談に対応するため研究会を母体として有限責任事業組合(LLP)金澤町家が設立され、渡辺木材店の改修もそのメンバーである「むとう設計(有)」の武藤清秀氏が中心となってあたられました。
 この建物は明治30年、北国街道に面して建てられ、その後大正8年に市電の開通による道路拡幅のため曳き家され、その時にかなりの改変が行われたと推測されるとのことです。
 改修の方針は次の通りです。
< 時 代 >
曳き家した時の形を基本として、可能な限り復元する。ただし、外形はそのままとする。
< 構 造 >
柱の不同沈下・傾斜を修正、腐朽材の修理・取替、壁量の増加、壁の塗り替えにより耐久性・耐震性・居住性の向上を図る。
<建具・畳>
できるかぎり、使えるものは再使用、あるいは転用する。
< 設 備 >
機械設備、電気設備はすべて更新する。ただし、照明器具は一部再使用する。
吹き抜けの土間から茶の間を見る
吹き抜けの土間から茶の間を見る
 以上、京都での再生研(作事組)の改修方針と同様の考え方です。改修されたばかりの建物は隅々まで心配りが行き届き、設計も施工も丁寧に行われたことが伺われます。1階の店ノ間は土間とし、オーナーが運営する貸しギャラリーとなっています。定年後に開設する予定でしたが、改修中に町家のギャラリーができることを知ったアーティストから、さっそく展覧会をしたいとの希望が舞い込んだため、定年を待たず、前倒しではじめられました。
 金沢の町家は、京都とよく似ていますが京都ではあまりみられない特徴があります。1、2階とも間口いっぱいに開口をとり、表側にまったく袖壁のない町家が多く、そのため戸袋をつけず、雨戸は上下2枚に分けて蔀戸とし、鴨居上部にしまいこみます。また、2階軒下に袖ウダツをつけ、1階軒下に下りと呼ぶ横板のある町家が多く、屋根の勾配が急であることなどです。屋根は現在は瓦葺きですが、建築当初は板葺きで緩い勾配だったとのことです。いずれにしても、できる限り光を取り入れつつ、吹き込む雨や雪を防ぐなど、金沢の気候風土への対応と思われました。この建物では2階の奥の主座敷は鮮やかな朱色の土壁が再現され、金沢の華やかな文化風土が感じられました。また、金沢には武家街があり、町人の町家とは姿の違う、武士系と分類される町家も数多く残っています。
 
店ノ間
店ノ間はギャラリーとした
2階座敷
2階座敷 壁は鮮やかな朱色
日頃見慣れた京都の建物とくらべ、伝統建築として共通する部分もあり、少しずつ異なる部分もあります。地域の気候風土、歴史や文化とそれに対応する工夫と、それを生かす改修作法など、全国各地での多様な姿をお互いに参照することで、刺激を受け、それぞれの地域での活動に生かしていくことが大切であることを感じました。
2010.1.1