• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家再生研究会

西陣織屋建貸町家の改修 ─上京区・出口邸

内田康博(京町家再生研究会幹事)

正面外観(写真:内田康博)
 昨年11月、京町家友の会の会員さんから、貸町家に空きがあるので新たな居住者を探したいというご相談が京町家情報センターにありました。情報センターの松井さんが現況を確認し、構造的な補修も必要と判断して京町家作事組に相談が持ちかけられ、京町家友の会、京町家情報センター、京町家作事組が連携しながらひとつの町家を改修することになりました。京町家再生研究会を核としてうまれた京町家ネットの連携がうまく生かされた事例です。
 そもそものきっかけとなった友の会の会員さんである小林さんは寺町通御池上ルの古い町家を改修して、竹紙のお店とギャラリーを併設するギャラリーTerraを経営され、ご自身の経験や友の会で接する情報などから、ご主人の実家である出口家所有の貸町家も十分再生可能であると考えられました。
 作事組の担当者として出口家にお邪魔し、ご主人のお母さんにその町家のことをお聞きすると、自分が生まれたときにはたぶん建っていたので、築80年以上だろうとのことでした。さらに、どこかから移築されたものであることも思い出されました。建物の状況からおそらく明治末から大正ころの町家と思われます。はじめから貸家として建てられ、二世代半の間同じ家族が住まわれ、ここ二年半ほど空家となっていたそうです。
 場所は七本松通中立売のほど近くで、西陣の織家の密集する地域です。この家も織家建の形式で、元々は土間の作業場であったところにオクノマが造られ、トオリニワにはダイドコと同じ高さに床が張られ、火袋は天井でふさがれていました。建物の正面は東向きで南北両脇が路地となって独立して建ち、北側にバットレスが2本つけられていました。屋根はたわみ、柱は傾き、外壁の焼杉板は傷んで隙間があき、正面虫籠窓の漆喰はトタン板で補修されていました。見た目にもだいぶ傷んでいてお風呂もなく、借り手がみつかるかどうか心配され、改修を迷っておられましたが、情報センターの担当で町家専門の不動産屋さんであるエステイト信さんから、借り手は十分見つかるとの太鼓判を押していただき、安心して改修を進めることとしました。

天井を撤去して復元された火袋(写真:内田康博)
 改修方針は情報センターの貸家改修の基本方針にそって、屋根・外壁・構造体・水周りの設備は家主である出口さんの負担で改修し、内装と電気設備の改修は入居者に負担していただくこととしました。設計の打ち合わせには、出口家のお母さん、長男御夫婦、次男御夫婦(小林さん)の5人が参加され、お母さんのご希望でお風呂を新設し、二人の息子さんのご希望でトオリニワにつけられていた天井を取り払い、二人の奥様のご希望で北側の外壁は金属製ではなく焼杉板を張ることになりました。屋根瓦も一新することとし、出口家のみなさんのこだわりで、町家を町家らしく改修することが決まり、工事は4月に始まりました。
 工事を進めながら平行して入居者を募集し、外国人の建築家と日本人の奥さんが入居されることになり、入居者のご希望もお聞きして、当初の計画を一部変更しながら工事が進行しました。家主さん負担の工事が5月中旬に完了したあと、入居者ご自身でオクノマの天井を取り払い、一部土間として残っていた作業場の床を上げ、ミセの天井裏だった部分の内壁の土塗り壁の補修などをされていますが、親戚の大工さん、友人の左官屋さんのほか奥さんの御両親も含め家族総出で作業が進行中です。
 この貸町家の改修を通じて、出口さん御家族の町家らしさへのこだわりと町家への愛情を感じました。また、住まれる方の、土と木でできた町家を自らの手で補修して住もうという意気込みに触れることができました。これからも京町家ネットを通じて、そんな所有者や住み手とともに町家の改修をすすめるお役にたつことができれば幸いです。


2006.7.1