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京町家再生研究会

京町家ネットの姿勢と行政との協働

 京町家作事組と京町家友の会は平成21 年に共に設立10周年を迎えたが、これを記念して、これまでの総括と今後の活動の目標を協議するため、11 月6、7日に記念行事を行った。この中で、6 日の午後行われた公開シンポジウムでは「市民活動と行政のパートナーシップ」をテーマに、京都市と京都市景観・まちづくりセンター担当者をパネラーに招いて、これまでの関係を振り返ると共に今後の展望を考察した。コーディネートは京都市とわれわれ京町家ネットに精通している立命館大学のリムボン教授にお願いしている。
 リムボン教授の巧みな進行にも拘わらず、討論の内容は噛合わず、本質に迫ることなく結果的に「相変わらず」というのが実感で、それほど成果があったとは思われない。「相変わらず」という結果は、市民活動と行政の協働が如何に困難なものであるかを証明し、疑念は晴れることがない。私はいつも「双方の立場を十分認識し、違いを明確にすることを前提に、お互いに何を期待しているのかを考えた上で協働すべきである」と言っているが、果たしてそんなことが可能なのだろうか。
 この10 月に金沢で行われた第3 回全国町家再生交流会において、地元NPO と行政の関係をつぶさに拝見したが、日頃抱いている問題点を再確認することになった。確かに、金沢の行政はきめ細かなまちづくり施策の実現に積極的に取組んでおり評価されている。しかしながら、市民活動との関係は古典的であって、市民活動を行政施策遂行のための装置として認識しているようだ。
NPO 側も、行政施策への参加を是として活動資金を行政 に頼ることによって、自ら自立性を脆弱なものにしているように思えた。ただ、こうした批判はわが国の現状からは些か的外れと指摘されるであろう。何故なら、金沢の行政とNPO の〈協同〉のレベルは、一般水準を遥かにに超えているからである。
 それでは、どのようにすれば市民活動と行政の協働が可能となって、かつ市民社会のまちづくりに貢献できるのであろうか。困難を承知で言えば、市民活動側が自立性を高め、行政が市民活動をあくまで裏方として支援することである。我々として現段階でなすべきことは、行政との安易な協同を求めることではなく、行政に頼らない市民活動の姿勢を確立することである。まず、取組まなければならないのは、自立を目指す多くの市民活動組織の協働である。行政との協働を議論するのは次の段階であろう。

 これからの〈協働〉への展望を拓く鍵は、確実な運動論に基づいた京町家ネットの活動にあると思う。行政との新たな協働を模索するために、今一度、京町家ネットの姿勢を検証してみよう。「京町家ネット」は、NPO 法人京町家再生研究会を中心に四組織で構成されている。

<1>特定非営利活動法人京町家再生研究会 (1992 年7 月発足 会員数80 名)
(目的)町家に係る調査・研究、再生提案、情報発信、活 動の連携など、実践を通じて、歴史的資産としての京町 家の保全再生とそれらを生かしたまちづくりを目指す。

<2>一般般社団法人京町家作事組 (1999 年4 月発足 会員数35 社(人))
(目的)町家の修復、改修、診断などのために熟達した技 能・技術者、施工業者を紹介し、高度な技術と適正な価格 で実施できる道を拓き、京町家の保全再生に資する。

<3>町家の暮らしを知る京町家友の会 (1999 年4 月発足 会員数417 名)
(目的)京町家の持主、住み手、および町家の保全再生に関 心をもつ人達(全国民を対象に)の情報交換と勉強および 親睦を図るため、参加しやすい催事を行なう。

<4>空き町家と人をつなぐ京町家情報センター (2002 年4 月発足 登録業者25 社)
(目的)京町家再生研究会の担当者3 名と登録不動産業者が 協働して、京町家に関するあらゆる不動産情報を収集し、 持主・売主と借主・買主を友好的に結びつける。

 四組織はその目的にしたがって独自の日常活動を行っているが、「京町家の保全・再生による市民主体のまちづくり」という理念を共有し、有機的に絡み合って京町家ネットとして市民運動を展開している。いずれも、安易に行政の支援を仰いだり、企業の助成、委託事業等に頼ることなく、市民としての使命に徹した運動を主体的・積極的に続けている。
 それぞれの活動目的を特化させているため構成メンバーに違いはあるが、職能を持つ市民と町家居住者が中心となって、職能と暮らしを生かす形で市民運動に関わっており、余暇をボランティア活動に当てているわけではない。
 京町家再生研究会の構成メンバーは何らかの形で建築や都市計画に関係するものが多いが、町家居住者である会員と協力して実践的研究、調査等を担当する。京町家作事組は設計者・施工者、京町家情報センターは地場の不動産業者が会員となり、京町家再生研究会の担当理事と協力して職能を市民運動の中で発揮する。友の会は京町家ファンクラブの要素を持ち、他の三会の活動を暖かく緩やかにサポートしている。
 京町家ネットの運営については、その会費のみで賄っていくことは難しい。再生研究会については研究の蓄積に基づいた政策提言、委託調査研究等の事業、作事組、情報センターは市民と会員が支える独自の運営協力金・活動寄付金システムによって財政基盤を確保している。こうして、四会がそれぞれ独自に財務処理をしながら、財政基盤を共有して他の会の活動を財政的に支援する体制をとっている。
 我々は市民主体の市民活動を展開していくために、常に共有理念を強固にもちつつ柔軟な社会対応を心がけ、会員の職能を最大限に生かす仕組みを工夫構築し、財政基盤確立のためのシステムを作り上げてきた。しかし、現在も試行錯誤の連続である。金融関係の取り組みが大幅に遅れている。この分野に特有の危惧は十分認識しているが、タブー視することなく重点課題としている。今後は、町家、民家再生に取組む地元および全国の市民団体と交流を深めることによって、市民主体の運動のあり方を引き続き追求していきたい。

< 京極迪宏(京町家再生研究会)>
2019.3.1

京極さんを送る言葉

透徹した理論を展開したかと思えばハチャメチャなもの言いで攪乱。
唯我独尊居士貫徹かとみればワイワイと群れたがる。
寂しがり屋だったのかな。
種々の機会とご教示をいただき世直しの社会活動を共に展開することができました。
ありがとうございました。
そして心よりご冥福を祈ります。
行先は上か下かはわかりませんが、いずれかでお会いしたらまたご好誼のほどお願いします。


梶山秀一郎