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京町家再生研究会

町家再生に必要なこと−第7回全国町家再生交流会 in 倉敷


 第7回目を迎えた町家再生交流会、今回は倉敷に多くの方々が集まった。倉敷の変わったところ、変わらないところをさまざまな地域の方々とともに歩くのはとても楽しかった。同時に今後の交流会のありかたや、町家再生活動のよりどころについて、考えさせられる二日間だった。

 初日2月7日の午前中は交流会に先駆けて「第4回備中町並みゼミ2017」が開催された。備中町並みネットワークのみなさんが積み重ねてきた取り組みの成果や、それぞれの地域に特有の課題があることが明らかになった。矢掛町や浅口市金光など、地域の多様性と独自性が語られた。高梁市の芳賀芙蓉軒の事例からは、ひっそりと生き続けてきた建物が庭の手入れから少しずつ生き返りつつある状況がわかり、町家再生にとって地道な活動こそ重要であることが感じられた。

 午後から始まった交流会の基調講演では、再生研の宗田先生が、町家を壊さない新条例や民泊条例など、京都の現状を詳しく紹介した。各地からみれば観光で栄え、それに対応したかのような町家活用が先駆けの事例と思われているようだが、新条例施行を目前にして町家が突然壊れていくのが京都の現状である。宗田先生から、コンパクトシティやストック活用という本当の意味は、開発でも保存でもない、町家再生であることが強調された。

 第3分科会「町家や町並みの賑わいづくり」では、町並み保存から出発して長年活動を続けている妻籠、近年「日本酒」をテーマに町並み整備を進めてきた肥前浜宿など、観光をめぐる具体的な課題がいくつか出てきた。京都からは、明倫まちづくりの事例をもとに、観光客のためのホテルやゲストハウスの増加で地域の生活環境が乱されていること、地域住民の自覚こそまちづくりには必要であることを小島理事長が伝えた。 また、お金のことも問題になった。補助金や助成を目当てにどれだけ成果があったか、が語られるが、本当にそれでよいのだろうか。

 今回の交流会全体を通じて感じられたのは、地域によって温度差が大きいことである。地方創生のもと、歴史的な町並み、町家を看板にして賑わいを取り戻したい方々と、京都のように地域の力を回復したいものとの差が歴然としていた。伝統建造物群保存地区を抱えている地域との違いも明らかになった。もちろん経済効果も必要であり、観光客も必要だろう。だが、大人数を収容する施設や宿泊所、数値による評価、とりわけ拡大や増加により、町並みや町家の価値が決まるのだろうか。今回の交流会を通じて、再生研として伝えたかったのは、京都のまちなかでは、増加する観光客と乱れるマナー、それを受け入れる地域住民の体力不足が露呈していること、町家や町並みが消費財になってしまっているという危機感である。

 町家が住まいの一つの選択肢として普通に考えられるようになるためにするにはどうすればよいのか。観光や利活用という言葉に隠れた真の価値観をどのように回復すればよいのだろう。それは地域それぞれで考えるべき課題であり、都心部と過疎地を一緒にして議論できないし、観光客のボリュームと質にも関わってくる。どんな問題でも共通点と独自性があるのだが、それらがうまく整理されないまま、議論が噛み合わない場面が今回は特に多かったように思われる。

 町並みゼミでも話題になったが、交流会では、「悩み」や「課題」をどうしたらいいのか、国や行政と地域との関係、法制度そのもののあり方など、次の時代に向けて具体的に問う姿勢が明確にあっても良いのではないだろうか。また、京都の条例のように、どこでも通用する法律ではなく、それぞれ地域の持つ独自の規定が優先する仕組みこそ「地方創生」には必要だと思われる。

 交流会終了後、倉敷町家トラストの事務局で、全国町並み保存連盟の会議がおこなわれた。当日「まんまカフェ」がオープンしており、引きこもりを抱える家族が家庭料理を提供する場となっていた。町家が地域と共に再生している現場を知ることができた。また、日暮れていく町のなか、中村泰典さんにご案内いただいた再生町家の住まいを見せていただく機会もあり、前回の交流会でお世話になった川越の荒牧さんと一緒に路地の中を歩いた。倉敷で出会いたかった風景がそこにあった。

 ひっそりとまちなかに生きている一つ一つの家が私たちの生活を受け入れてくれるような、そんなまちづくりにつながる事例を一つでも知り、励みにして行きたい。特効薬で解決するような町家再生はない。制度を変え、意識を変え、よみがえり続けることが町家再生の活動には必要であることを痛感した。
<丹羽結花(京町家再生研究会)>

◆実施概要
-----2月17日(土)-----
第1部 第4回備中町並みゼミ 各地からの報告/意見交換
第2部 第7回全国町家再生交流会 in 倉敷
基調講演 京都の現状(町家の保全と継承
その新しい仕組み 宗田好史
パネルディスカッション
分科会
 第1分科会 町家再生利活用(地域活動、まちづくり拠点等)
 第2分科会 災害に強い町家・町並みにするためのルールづくり
 第3分科会 町家や町並みの賑わいづくり
 第4分科会 次世代への継承
懇親会

-----2月18日(日)-----
全体会 分科会報告、総括/大会総括
見学会
2018.5.1