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京町家再生研究会

住宅宿泊法−急増する民泊と町家

宗田 好史(京町家再生研究会)
 前回に続いて観光の話題になる。今年6月の国会で成立した「住宅宿泊事業法」を受け、京都市では「京都市にふさわしい民泊施設のあり方検討会議」を設置した。京都では、数年前から旅館業法の許可を受けていない「違法民泊」が横行し、市民の良好な生活環境を脅かしていることが問題になっている。この欄(論考)でも昨年9 月の108 号で述べたように2016 年7 月には民泊通報・相談窓口を開設し、これまですでに2,400 件を超える苦情、相談が寄せられた。主な内容は、深夜の騒音、路地や住宅の安全への不安、マンションのオートロックへの不信感、ゴミ出し問題である。

 この「民泊」(住宅の空部屋やマンションの一室を利用し旅行者を宿泊させる)のルールを定めた住宅宿泊事業法(民泊新法)が6月に成立、施行は来週の予定という。民泊ホストは都道府県に届出をすることで年間180 日を上限に合法的に民泊を運用するとされた。

 これまでは農家民泊の特例と国家戦略特区での民泊を除き、旅館業法の簡易宿所の免許をとる必要があった。そのため、近年急増した民泊の大半は無許可営業、違法だった。新法では民泊ホスト(家主)と、ホストに代わって住宅を管理する住宅宿泊管理業者の両方に国土交通省への登録が義務づけられる。だからAirbnb 等の仲介業者も官公庁への登録が義務づけられる。横行していた無許可民泊が、この法である程度は整理されるという。本誌108 号で述べたようにAirbnb は急増している。その規模はすでに年間約9,200 億円に上る。この1年だけでも500万人がAirbnbを通じて日本を訪れたという。

 年間180 日という営業日数上限は、各自治体が条例により短縮することが可能、具体的な基準は今後政令や省令等で定めるという。民泊を推進したい地方と慎重派な京都のような市もあり判断は大きく分かれている。京都市では、「京都らしい」民泊のあり方を模索した京都基準を検討している。ホテルや旅館が不足するから民泊をとか、空家が多いから民泊に使うという論理は最初から排除するという。しかし、ホストになって自宅に外国人に泊まってほしいという善意の民泊経営を阻止することもできない。日本中で一人暮らしは増えた。広い家を持て余し、シェアしたいという、シェア・エコノミーは着実に広がっている。

 問題は家主不在の民泊である。マンスリー(ウィークリー)マンションやサービス付アパートを経営する不動産業者がいる。今はもう売れないリゾートマンション、金を払ってでも早く手離した負動産となった物件を抱えた業者は多い。新法で民泊が合法となれば、今は慎重な大手旅行代理店や不動産企業も見境なく参入することになろう。もともと、これらの業界にはモラル等ない。消費者の不満が高まるたびに行政指導を受けていやいや改善してきた。利用者保護のための保険や業者の相互保証制度の整備にも抵抗感をもつ業者は今も多い。

 営業日数が気になるのは、例えば京町家再生をする場合、賃貸収入で資金を回収するより民泊経営の方が数年も早い。そうなると民泊が町家暮らしを駆逐し、改装しすぎて住宅機能を損なうこともあろう。それ以前に、慎重な安全確保が要る。

 営業日数の他、届出を義務付ける民泊業者の範囲、営業を認める区域を京都市を含む各自治体が条例で定める。法律にいう「住宅」宿泊事業を行う住宅の範囲も決めなければならない。いわゆるホスト(家主)は「住宅宿泊事業者」となる。ホストに代わって住宅を宿として運営する会社は「住宅運営管理業者」、Airbnbはそれらを仲介するから「住宅宿泊仲介業者」となる。これら三者は届出が義務付けられ、登録免許税を毎年払う。外国人客を適切に案内し、パスポートを管理し、安全確保に重大な責任があり、宿泊税徴収も課せられる。当然ながら周辺住民に丁寧に説明し、生活環境への一切の支障がないようにする義務がある。少なくとも三者内一人は常駐し、あらゆる事態に対処する。それができなければ罰金を払う。仲介業者は、違反した事業者・管理業者に関わる民泊を仲介すれば、同様に百万円以下の罰金、6 か月以下の懲役に科すべきというという議論もある。

 そもそも、国の民泊新法は推進派と慎重派の妥協案である。不動産業者の多数は推進派、これで住宅が売りやすくなる、空家活用になるからである。一部の少数派は反対、すでに旅館業法の許可をえて町家ホテル等を経営する業者で、規制緩和で後発事業者に自分の客を奪われたくない。経営ノウハウがすでにあって、周辺住民と上手にやっている。一般のホテル・旅館業者は大反対している。民泊増加で世界各地でも京都市内でも宿泊価格が下がり稼働率は上がらない。価格下落は大阪が深刻、パリでも影響が大きいという。実際、低価格帯の客が増えていいことはない。すでに、観光客総数を規制しようという街もある。

 京都は日本最大の観光都市、外国人宿泊者数も鰻登りである。だから民泊の影響も大きく市民もナーバスになった。すでに過剰な入込客数をこれ以上増やす必要はない。空家は町家から埋まり、都心のマンションの売れ行きもいい。だから大多数は慎重に、営業を認める範囲を限定したいという声が多い。そして、京都らしさは本当の住宅か否かで厳しく判断しようという。東京や大阪と差別化し、マンスリーマンション等は民泊として認めない、民泊目的でマンションを購入することも禁じよういう。だから、市内のマンションの管理組合に早々に禁止規定を盛り込むように奨励している。

 しかし、全国的には推進派が多い。その理由は外国人を含む観光客が増えない。安い民泊があれば客が来るのではないかという浅はかな期待である。美しい景観がない、魅力ある店がない、文化もない。もちろん個性的な民泊体験もできない。規制緩和したからと言ってそんな町に観光客は来ない。しかし、推進派は京都市の条例が慎重に傾くことを嫌っている。自らの浅はかさを隠すために、京都にも同じように浅はかになってほしいのである。だからこそ、京都市は京都らしい民泊のあり方を検討している。京町家に泊まる人気は高い。京都の街中を暮らすように旅する魅力は大きい。その街中を損なうような民泊が許されていいはずはない。だから、民泊を守るためにこそ厳しい規制が要る。

2017.11.1