• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家再生研究会

京都観光新時代−急増する外国人観光客と町家

宗田 好史(京町家再生研究会)
 最新の『京都観光総合調査』によると2016年の京都市への年間観光入込客数は5,522万人。前年の5,684万人から若干減ったものの、外国人宿泊者数がやや増えて318万人。修学旅行生は110万人だから3倍になった。そのため総宿舎数が1,415万人と過去最高を記録。そして外国人観光客急増の影響が目立ってきた。市バスが満員、民泊も増え、神戸や舞鶴の港からクルーズ船の乗客が大型バスで押し寄せる。これを観光公害と呼ぶ人もいる。

 戦後の京都ではこれまでにも急増期があった。1964年東京五輪と同時に東海道新幹線が開通、1970年大阪万博にかけての10年間には入込客数が3倍に増えた。しかし、その後30年間は年間入込客数が4千万人弱で安定していた。それが21世紀初頭からの15年間に4割も増加、一昨年には5,700万人になった。

 市内外国人宿泊数は2011年52万人、12年97万人、それが318万人になりよく目立つ。LCC(格安航空会社)普及が原因で、アジア諸国の観光客が5年で4倍に増えたからである。全国の統計ではあるが、この5年に中国人は11倍、香港5.9倍、台湾4.6倍、韓国2.7倍と続く。総数は少ないが、タイの10倍、マレーシアの4.7倍も目立つ。同様にスペインからでも5.2倍、ポルトガル4.6倍、イタリア2.9倍であり、米国人も3割増えているから欧米人の人気が落ちたわけではない。日本人と欧米人にすでに人気の観光地京都に、アジアの大量の客が参入したのである。混乱を極めるわけである。

 京都で特にアジアの客が増えるのは、国内には京都とディズニーランドしかないからだが、世界には京都以上の観光都市もある。前号巻頭言で小島理事長がドイツやイタリアでも深刻な問題になっていると述べた。日本では京都が最初に世界水準に達した。

 西欧諸国はだいぶ慣れている。今まで何回も急増に直面してきた。そもそも戦後の西欧観光は第二次世界大戦からの経済復興のため、1950年代に豊かな米国人観光客を誘致したことに始まる。戦前には一部の富裕階層の特権だった観光を大衆化し、観光の産業化を進めた。その後、60年代には西欧諸国でも庶民にバカンスが広がり、70年代にはジャンボ・ジェットの登場で豊かになった日本人が大挙して押し寄せた。その後、1989年のベルリンの壁崩壊で共産党独裁から解放された東欧諸国の人々が怒涛のごとく押し寄せた。そして中南米、最後にLCCでアジア諸国、特に近年は中国人客が急増したのである。

 観光公害対策も進化してきた。まず交通対策は半世紀以上の取組みでかなり整理され、都心の街路はモール化された。プライバシー侵害や騒音などの問題も観光客と市民をゾーニングし、最近では民泊規制区域もある。店舗の過剰な広告もルールを定め街並み景観が半世紀前から保護されている。バルセロナ市では、最近観光客の総数規制を始めた。京都市は四条通の歩道を拡幅し、観光税導入や市バス一日乗車券の値上げを決めた。これからが本番だろう。今から躊躇しているようでは観光都市の初心者マークは外せない。

 一方、近年の京都観光を見ると、一時には42%もあったマイカー観光客が6%まで劇的に減った。だから交通渋滞よりもバスや地下鉄の混雑が目立つようになった。この他4つのシフトと呼ぶ変化がある。まず、洛外の名所旧跡巡行から遊ぶのは都心がという「都心シフト」。次は、中高年それも女性が多い「シニアシフト」「女性シフト」、高価格・高品質志向が特徴である。「デジタルシフト」とはAirbndbなどネット利用のこと。そして、最後が「アジアシフト」という。オジさんやお兄さんの出る幕はない。急増する町家ホテル人気を支えるのも、まさにこれら4つのシフト、都心でシニアの女性とアジア人が町家を好むから、そしてインターネットで空室のある日を選んで来てくれる。

 さて、観光客規制は白川郷・五箇山と富士山が知られ、尾瀬、上高地など国立公園での議論が中心だった。京都では規制論はまだ出ていないが、このままアジアの客が増え続ければ議論が起こる。すでにB&Bの規制論がある。住居系用途地域内で制限する地域限定論と営業日数・期間を限定する方法がある。宿泊料金に比例した観光税の導入が始まるが、観光客の宿泊を目的としたマンションの固定資産税を引上げた例も海外にはある。ホテルと観光マンションの建築を制限する方法もある。都心の田の字地区で新たな商業施設の開設を制限する、町家再生店舗を規制するなど、様々な方法を議論することになるだろう。そう、このまま放置すれば土地も町家も高騰を続け、制御不可能に、町家の危機になる。いつも問題になるのは、京都に対しても町家についても理解も敬意もない観光業者である。コンテンツもコンセプトもないまま、常に目先の利益を追いかける。

 この議論の背景にもう一つ深刻な問題、人手不足がある。今就活が売手市場一辺倒なのは製造業の人手不足が原因であるが、サービス業も例外ではない。ホテル、飲食業押しなべて人手が足りない。京都には学生が多いからいいように思えるが、すでに相当数の外国人が働いている。中国企業が中国人を雇って中国からの観光客をもてなす町家ホテルやレストランが増えることが予期される。すでに、着物レンタル業に進出し、「婚礼向け前撮り写真」ビジネスは中国人の独占状態、祇園新橋や平安神宮を仕事場にしている。

 人手不足は人口減少が原因である。年少人口は半世紀も前から、生産年齢人口は20年前から、そして間もなく高齢人口も減少に転ずる。今や日本人観光客が減り始め外国人中心の観光地に移っている。だから政策的には景気後退も失業も懸念する必要はない。京都市民にとって適切な観光制御を考えればいい。京都の文化遺産を消耗させることなく、持続可能な方法を考えればいい。町家とその町並みがより美しく見え、京都市民の暮らしがより美しく快適になるために観光を制御すればいい。美しい町と美しい暮らしがあるからこそ観光客が集まってくる。コンセプトのない業者をいち早く駆逐するための論理を用意している。

2017.9.1