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京町家再生研究会

地域景観づくり協議会の現状―明倫学区の取り組み その2

<丹羽 結花(京町家再生研究会事務局)>
 以前論考でもとりあげた明倫学区の取り組みが新たな展開を迎えている。地域景観づくり協議会の活動が始まって2年、活動の成果とともに制度の問題も明らかになってきた。今回は地域景観づくり協議会の現状と、現在のまちなかの変化を踏まえた今後の再生研の取り組みについて考えてみたい。
 京都市の地域景観づくり協議会制度は2011年4月に制定された。認定を受けた団体が、地域特有の自然、歴史、文化を背景とした景観を地域の特色として打ち出した「地域景観づくり計画書」を策定する。新築や新しい看板の設置など、対象となる事業が発生する場合には必ず住民と意見交換会を行わなければならない。意見交換会は地域のあり方を伝え、業者と共有する機会として設けられる。地域住民の思いや方向性を共有できる主体的な制度といえるが、土地建物所有者や事業者に対する強制力はない。
 現在、京都市内では8つの団体が認定されており、9つ目の認定も予定されている。まちなかで学区を主体としたもの、観光客を多く迎える地域ではなりわいに直結したところ、長年のまちづくり活動の中で一つの到達点としてとらえられているところなどもあり、地域の事情により、対象となる範囲も計画の内容も認定を受ける組織もさまざまである。
 明倫学区ではまちづくり委員会が主体となり、学区が認定を受けている。この2年間に29件の相談を受けて、意見交換会を開催した(2017年2月末現在)。意見交換会を通じて住民が感じているまちなかの変化をまとめておこう。

■ ホテルの新築、改築が増えている
 伊勢長の跡地で建設中の大規模ホテルのをはじめ、新築だけではなく、ビルの改修など次々と案件が出てきてる。規模もさまざまである。景観はともかく、運営面での課題が多い。工事中の車両通行、リネンなどのサービス車両やタクシー待ちなど、通学路でもある通りが車であふれる状況に住民は辟易としている。敷地内に駐車場を設ける、サービス車両の駐車時間を調整するなどを協議会としては必ず要請している。

■ ゲストハウス
 簡易宿泊所への転用も目立つ。路地奥の長屋をすべて宿所にするケースも出てきた。それまで空き家であったものが整備され、活用されるという面ではよいことだが、見知らぬ人が路地という親密な空間に常時出入りするのは、周辺の居住環境に大きな変化、不安をもたらしている。また、管理者が常駐しないという計画が多く、特に夜間、非常時の対応がどのようになされるのか、住民は危機感を抱いている。ホテルの場合も同様だが、所有者、事業主、運営者が異なるケースが多く、責任の所在があいまいなまま計画が進んでいくことが多いのも不安材料の一つである。ある町内では、「祇園祭の山鉾町として管理者がいないのはあり得ない」と強く要請し、宿泊者がいるときは管理者が常駐する条件をとりつけた。基本的に運営関係は町内の問題となるが、協議会としても支援している。
 
■ 町家の改装
 店舗への改装については、てんこつにならないような改装、オリジナルのよさなどを再生研関係者と打ち合わせた上で計画するという事例もあり、ある程度協議会の効力が見られるところもある。ただし、前述の通り、路地奥長屋をまるごとゲストハウスに改修する場合など、デザイン性が優先されており、町家として健全な改修なのか、わからないものもある。

■ 町並み
 美しい理想的な町並みとして、「町家が連続する町並み」を住民が期待していることはある意味興味深い。これまではなんら規制ができなかったが、地域の特徴として「軒の連なる町並み」「壁面がデコボコしない連続性」を求めるなど、今後の建て替えによって、明倫学区の理想に近づけたいという住民の思いは切実だ。よいよりものを目指すという、現在の基準ではとりあげにくいことをこの制度では業者などに対して訴える機会となっている。
 色など、京都市の基準を満たしている、という主張を業者はおこなうが、質感の面では配慮されていない。このときも町家の土壁が基準となり、落ち着いたもの、ピカピカしないものをお願いしている。

■ 課題と展望
 2016年12月11日、各協議会の団体が集まり、フォーラムを開催した。ここで明倫学区が求めたのは、「できるだけ早く相談してほしい、そして一緒に作っていく機会にしたい」ということだった。後から相談に来られたら、設計案に文句をいうだけになってしまう。しかも協議会には強制力がないから、業者が受け入れない場合、住民は無力を感じることも多い。
 また、再生研の1月例会で訪れた西之町のように低層町家が連なり、古美術のまち、芸妓さんや舞妓さんが歩くまちとして住民自身が積極的にとりくんでいる組織もある。壁の色を厳しく設定したり、町内にさまざまな呼びかけをしたり、まとまって動いている組織もあることがわかった。
 明倫学区としてはイメージを共有し、居住する空間として、これまでの生活を多くの人たちと一緒に続けていくためにルールブックを作成し、分かり合えるようにしようと努めている。川越のまちづくり規範をモデルにして、新しい人も観光客も地域を理解し、地域の意向をうけいれるような設計、企画を業者が意識的にできるように期待している。
 もっともこれらの努力が徒労に終わらないように協議会制度の欠点を是正し、よりよりシステムにしていただきたい、というのが京都市に望むところでもある。さらに市役所内で連携が取れてされておらず、情報が共有されてない状況も改善していただきたい。再生研としては、このような動きのなかで、町家が再評価され、住まう空間としての魅力を共有できるように協働していきたい。

2017.3.1