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京町家再生研究会

京町家基礎調査に参加して

<丹羽 結花(京町家再生研究会事務局)>
 2016年11月27日、雨の降るなか、京都市主催の京町家基礎調査に係るボランティア調査がおこなわれた。2016年新年号(京町家通信104号)で小島理事長が「町家調査」の復活を初夢にしていたが、さて夢は叶ったのだろうか。
 
 今回の対象は明倫学区、本能学区、有隣学区、当日70名ほどの市民ボランティアが調査員として集まった。いわゆる第3期調査と呼ばれる2008年〜2009年に行った調査データをもとに、その後の変化や残存状況を調べるというものである。スマートフォンなどのタブレット端末からデータベースにログインし、対象町家のデータをチェックしながら、変化状況を入力する。地図に書き込まれたIDを打ち込めば対象データが呼び出され、町家の外観が表れる。住宅地図と首っ引きで「これか?」と迷うようなこともなく、簡単に確認できる。学生を中心にスマホ操作が得意な方々が変更事項をその場で入力していく。サクサクと仕事は進み、一チーム30から50軒を順調にこなした。冷たい雨の追い打ちもあり、「こなした」というのが正直な感想である。夢の実現とはほど遠い。
 
 京都市が関わる大規模な京町家調査は4度目になる。事の起こりは1995年から1996年のトヨタ財団助成による市民レベルの調査である。とにかく実態を知りたい、住み手の声を聞きたいという意欲が強く、田の字地区を少しずつ回る地道な調査であった。これをもとに京都市景観・まちづくりセンターが主となり、再生研も一部企画・運営に関わったのが1998年の調査であり、あわせて第1期調査と言われている。
 
 このときの座談会「京町家まちづくり調査パネルディスカッション」(特集:京町家の未来像―京町家まちづくり調査に参加して―)が京町家通信第5号に詳しく掲載されている。すでに町家の連担性は失われているが、地域や学区の特性があること、それらの特性を踏まえた調査が望ましいこと、調査の成果がそれぞれの特徴のあるまちづくりに役立つことを期待する、などの意見や感想が述べられている。義務ではなく、調査そのものを楽しむ、そこから生まれる調査の意義、町家のあり方を参加者が共有していることがわかる。第2期調査は一部の追跡調査に終わったが、次の大規模な第3期調査においては、立命館大学が企画に入り、GPSを使った調査となった。元学区の小学校をベースにして、調査へ出かけ、集合場所に戻ってくるとすでにその日のデータは分析中。他のチームの様子も伺いながら結果速報を聞き、みんなで討論する時間があった。
 
 これまでの調査では、迷い、手間を掛けている間のやりとりのなかで、専門家も一般市民も学生も、町家の価値を共有し、これからのことを考えることができた。今回はこのような議論の場もなく、調査終了後、流れ解散となった。2016年6月におこなった京町家新条例のシンポジウムをうけ、現在京都市で議論されている「京町家を壊す前に届け出てもらう」ための基礎データにもなるらしい。そんな大事な調査をこういう形で終わらせるのはもったいない。
 
 ボランティア参加者に学生が多数見られたのは救いである。若い人たち、町家に興味を持つ人たちにまちの実態を知ってもらいたい、そしていろいろな再生手法があることも共有したい。このような場を通じて、実際に学びながら得ていくものは、何年経っても色あせない。私自身、最初のトヨタ調査のお手伝いに関わったことが再生研と深く関わるきっかけであり、今の活動の原動力になっている。

  前述の座談会では、京都市景観・まちづくりセンターの位置づけがわからない、市民活動団体との連携の意義が見えてこない、見えてきた課題に対して再生研は具体的に動いてよいのか、その場の相談に応えてよいのか、調査時に感じたさまざまな疑問や課題はちゃんと京都市に届くのか、などの問題点も提示された。これらの多くは今も解決されていない。また、京都市が地域住民のまちづくりを推進していながら、今回の調査案内は、地元のまちづくり関係者になかったと聞いている。市民団体、大学、地域住民、学生、京都市の若手職員も含めて、関係者が具体的に関わってこそ、ボランティアで調査をおこなう意義がある。

 今回がこれからのプレ調査であることを願う。調査設計を再検討し、専門家と地域住民をまきこみ、バージョンアップした町家調査を2017年にはおこなおう、そしてこれからの町家のあり方について語る場を設けよう。「一年の計は元旦にあり」

2017.1.1