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京町家再生研究会

全国町並みゼミ 大内・前沢大会に参加して

<丹羽 結花(京町家再生研究会事務局)>
 2016年9月9日から11日にかけて開催された全国町並みゼミ。人生初の南会津滞在、再生研関係者は私だけ、台風の影響などなど、心細いことこの上なかったが、緑の山々に囲まれ、清涼な水が流れるとても気持ちのよいところで、市街地から農村集落まで、さまざまな地域で多くの方々に出会うことができた。
 
 城下町会津若松は、全国町並み保存連盟の会長を務めた五十嵐氏ゆかりの地である。今回は第9回会津若松市・下郷町大内宿大会以来30年ぶりの開催でもあり、町並み保存にたずさわる人々に大きな影響を与えてきた五十嵐イズムの検証とあわせて、町並みゼミのありかたそのものを考える機会にもなった。
 
 大内宿再生の牽引者、吉村徳男さんは、全体会の対談や分科会などを通じて「生活の光り輝いているところを観てもらうのが観光」と語った。集落の特徴であるかやぶき屋根を維持するべく、45才で退職して屋根葺き職人に弟子入りし、技術を身につけ、若い人たちと一緒に経験を積み、集落内の屋根を地域住民の手で葺き替えている。今回の大会にあわせて春の作業を秋に延ばし、作業風景を見せてくださった。本職は別といいながら自分たちの手で維持しているというみなさんの気概が感じられる。ほんものの技術を持っているからこそ、吉村さんの言葉にはぶれるところがないのだろう。神社「高倉さま」を中心とした歳時記など、老若男女、それぞれの世代ができることをやる、というコミュニティの意識も明確である。最終日にエクスカーションで訪れた前沢集落でも日々の落ち着いた生活が感じられた。水路の流れ、畑の様子など特別なことではないけれども、整っている。技術と生活習慣、その根元にある精神がしっかりと各自に息づいているからこそ、暮らしと町並みが継続されていることが窺える。
 
 国をはじめ行政は、地方創生の絡みもあり、歴史や文化財をいかした産業、とりわけ観光政策を進めている。町並み保存関連の活動には追い風ともいえる。だが、保存による観光を旗頭にした活動は転換期を迎えているようだ。今回の大会で課題となったことを以下3点にまとめておこう。
 
 第一の論点は「観光と生活」であり、第2分科会「人が住み続けられるまち」というテーマにも表れている。重伝建地区はもはや珍しいものではないし、保存修景が伝家の宝刀でもない。観光のための景観整備、町並み保存そのものが目標ではなく、地域の生活や生業を維持することが強調されていた。第2分科会での福井県東谷地区の二枚田さんの取り組みや第4分科会「農村集落の生き残り方」など、生業といかに関わるかが今後は重要な論点となるだろう。
 
 第二は「売らない、貸さない、壊さない」の三原則の守り方である。東京あるいは全国規模、または外国などの外部資本に対する姿勢としては当てはまるかもしれないが、相続ではなくとも本当に大事にする他者、価値観や意義を共有できる人々には積極的に住み継いでもらうことが必要だ。(古い言い方だが)Iターンや移住受け入れなど新しい世代が住み継ぐ仕組みを考える上では「住まいとして」の集落の魅力が重要となる。
 
 第三は「失敗例を語る場にしよう、本当のところはこうやねんという話をする場をもうけよう」という呼びかけがなされたことである。国や行政の仕組み、支援、制度をうまくつかって成功した事例を参照するだけではなく、その裏にある実態を知り、そのギャップにこそ問題が潜んでいることを認識する必要がある。
 
 よく「京都は特別だから」と言われるが、どの地域もそれぞれ特別であり、地域固有の問題を抱えている。住み続けるためには、地域に特徴的な住まい、それを引き継いでいく行事、メンテナンスの技術が必要であることは、吉村さんの言葉や姿から誰もが感じたであろう。制度を活用し、資金援助を受ける行為により、地域の手から離れていく、そんなことではなんのための保存・保全かわからなくなってしまう。今後は、地域課題の本質そのもの、すなわち地域の特性がなによりも優先することを国や行政も含めた関係者が認めること、そのうえで、建築基準法をはじめとするさまざまな制度が全国一律ではなく、地域独特の制度として認められることが求められるのではないか。  別の考え方をすれば、京都が特別なのは、重伝建に該当しない数多くの伝統構法にもとづく住まいが再生の対象になっていることかもしれない。そうであれば、逆に重伝建は特別に守られる対象ではなく、地域の特性を活かす仕組みのモデルとして、指定されていない建物や地域の適切なあり方に対して、手がかりのようなものになる必要がある。
 
 「生活が第一」の大内宿では、昼間にぎやかだった各家の商売が16時30分にはおしまいとなる。おかあさんがご飯を作る時間になるからだ。静かな夕暮れに包まれながら「こんなとき、外の床几で仲間と飲みながら議論していると前向きになる」と吉村さんが静かにおっしゃった。ちょうど居合わせた福川裕一 全国町並み保存連盟理事長、まちセンから八女市にもどって活動している中島宏典さんと一緒にしみじみとその言葉をかみしめた。

2016.11.1