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京町家再生研究会

アジアヘリテイジネットワーク・バリ会議に参加して

末川 協 (京町家再生研究会 幹事)
 1月の8日から11日まで、奈良まちづくりセンターとインドネシアヘリテイジトラストが国際交流基金の支援を受け表記のシンポジウムを開催された。京町家再生研の小島理事長、宗田副理事長とともに参加する機会を頂いた。「アジアの途上国における歴史的都市環境保全の支援」についての意見交換を目指して、アジアを中心に13カ国からの出席があった。30分程度、京都からの発表の場を頂けた。その報告をさせて頂く。

 事前に受け取った概要では「インドネシア、ミャンマー、カンボジアなど途上国での都市空間の保存を議論」。主な論点は、
 (1)他国の市民活動団体はどうしたらそれをサポートできるか?
 (2)市民参加の仕組みを都市空間保全のプロセスにどのように確立できるか?
 (3)経済活動と調和を持った都市空間保全の仕組みをどのように得られるのか?
というものだった。京町家再生研のこれまでの活動、自身が取り組んでいる日々の町家改修、第5期を迎えた京町家棟梁塾の活動の報告と合わせてそれらの設問に応じるプレゼンを試みた。

(1)他国の市民活動団体はどうしたらそれをサポートできるか?
 この問い掛けには、京町家再生研の24年間の活動成果をそのまま伝えることが、間接的な回答になると願った。第一は町家の再評価を社会的に行ったこと。都市の生活文化の受け皿である町家の良さを市民に気づかせたこと。町家の再生の事例報告、再生された町家でのアートイベント、改修中の町家の見学会、町家の住人による発表会など、小さな取組みを続ける大切さを訴えた。少なくとも今日では京都の景観に町家は不可欠なものとなり、町家を再生して住み続けることは社会的な選択肢として一般化した成果。第二は京町家作事組の創設と伝統構法の復権、17年間で300件近くの町家の改修を行った実績を報告。第三は京町家情報センターの創設。不動産業者の意識改革から取組みを始め、今では年間に200件の町家を仲介している実績の報告。

(2)市民参加の仕組みを都市空間保全のプロセスにどのように確立できるか?
 ここでも京都での状況を冷静に伝えることに務めた。京町家は私有財産であり、そもそも、その保全・再生は民間のプロジェクトであること。また国の建築基準法は町家を含む伝統工法の存在を60年間無視し、その新築の道を閉ざしている状況。所有は個人でも、町家の存在は社会的に分ること。その所有者や住人のところに出向いて、その保全と再生、町家の将来性を説得出来ること。これ以外に町家の保全の道はないこと。これがおそらく市民活動そのものであること。5万軒の町家のすべてにアクセスすることは不可能でも、成功例が近隣に広がり、施主が次の施主に繋がる実例。京町家作事組での運営協力金の仕組み。京町家ネットの活動資金を得ると同時に、改修工事を行う個別の施主に、市民活動への参加を実感してもらう目的を伝えた。行政も町家保全の市民活動を無視できないこと。景観条例の中で地区指定、単体指定で町家保全への助成が進み、今日では空き家活用や耐震改修からも助成が出来たこと。第二の設問への京都での答えは、市民団体はとにかく活動するしかない、そして意思表示を続けていくしかないと伝えた。

(3)経済活動と調和を持った都市空間保全の仕組みをどのように得られるのか?
 宗田先生のアドバイスにより、やや楽観的で世界史的な考察を行った。世界的に見れば、経済の動きは200年前の産業革命始まり、その直後にアーツアンドクラフト運動が始まり、日本でも民芸運動が起こったこと。20年前に始まったIT革命の後も、反作用としてスローライフやオーガニックライフを目指す動きが世界に広まったこと。京都でも30年前のバブル経済期には夥しい数の町家が失われたが、今では年間5千万人の観光客が訪れていること。国内からではグローバル化が進む東京地域からの観光客に受けること。グローバリズムの後には必ず、ローカリズムが起こること。時間的なずれはあり、貴重なストックも失われるが、保存の重要性を唱え続けていれば必ず開発に対する反作用が生まれる。第三の設問でも保全の実践に取り組むしか道はないと訴えた。

 最後に京町家棟梁塾の取組みを加えた。ここでも宗田先生から的確な示唆を頂けた。棟梁塾の目標として若い職方に伝統構法を伝えることは自明だが、それは当面の町家の保全のためばかりではない。伝統技術をアートに高めること、職人をアーティストに育てる大きな狙いがあること。伝統的な職方に憧れる若い世代が、自立的なアーティストとして、町家の施主や住人にスローライフやオーガニックライフを語れること。それが実現していること。ホワイトカラーでもなくブルーカラーでもなく、クリエイティブクラスの育成を目指していること。伝統構法を守る若いクリエイティブクラスが京都にいることで伝統そのものの復興も目指せること。将来、時代の要求が変われば伝統的な町家を京都に新築できる技術が残せること。立派な町家が壊されても悲観だけしていてはだめで、いつかそれ以上の町家を新築できる技術とクリエイティブクラスを残す大切さ。一昨年150年ぶりに復興した祇園祭の大船鉾では、地域の若い世代が中心を担った。その組立てや解体を担うのは京町家棟梁塾の卒業生であり、同様に京都で町家の復興できる日への希望でプレゼンを括った。

 バリ会議の全体の中で、技術者の発表は自分だけ、やや異色であったと思う。しかし、交流の種はすこし蒔けたよう、香港の参加者からこの4月に京都を訪ねたいと連絡があった。実際の町家保全の取組みをアジア各地にすこしずつでも広められればと思う。

2016.3.1