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京町家再生研究会

京町家の流通促進へ京都市長に要望書提出

宗田 好史(京町家再生研究会副理事長)

賃貸 売買
2011年度 73 66
2012年度 71 64
2013年度 70 100
2014年度 101 102
2015年度 96 124
411 456
京町家情報センターによる
京町家成約件数(単位:件)
 京町家再生研究会は京町家ネットの各組織、並びに京都府宅建業協会とともに、2015年12月門川京都市長に「京町家の流通促進による保全・再生策に関する要望書」を提出した。町家を安易に壊さず、町家のまま売る貸すなどして受継いでほしい。だから、壊す前に京都市に知らせる仕組みを作ってほしいという提言である。

 京町家情報センターに参加する市内11の不動産会社は、過去5年間に456軒の町家の売買契約、411軒の町家の賃貸契約を結んだ。合計867軒の町家が新たな所有者、住民の手に渡り、町家が再生された(付表参照)。その前の5年間にも契約件数は数百件を超えており、着実に増加してきた。もちろん、京都市内の一般の不動産業者も京町家流通を進めており、毎年200軒程度の町家が流通している。実際、町家を買いたい、借りたいという依頼は増え、市内だけでなく、遠方からも多くの人が不動産会社を訪れている。

 しかし、その一方で今でも年間500軒以上の町家が、記録を残すこともなく消滅している。供給を上回る要望がありながら、その求めに応えることなく元の所有者によって壊されている。一方で空き町家は増加し、毎年その多くが消滅か再生かの岐路に立たされている。迷ったら町家再生に向かってほしい。現在500軒対200軒、情報センターの皆さんも相当頑張ってきた。これを逆に200対500に、できればこれ以降一つも失うことなく、新たな住民に京町家を受継いでいきたい。それを強く願うから要望書を市長に届けた。

 町家所有者は、相続で町家の処分を考える際、建物としての京町家よりも、その敷地である土地価格をみて、町家を取壊すことが多い。実際、老朽化した町家は維持するよりも、除却して土地を売る方が高値で取引されていた。しかし、近年の町家流通が増え、町家を残したまま売買しても、取壊した価格との差がなくなってきた。町家によってはより高値で売買される場合も出ている。だから京町家を壊さず再生しても、必ずしも所有者の損失にはならない。この事実が所有者にまだ伝わらないから、今も解体・除却されている。

 そこで、まず町家所有者に町家流通の現状を知らせ、町家を処分する前に京都市に一言知らせてほしい。通知を受けたら京都市は我々専門家を交えた所有者との話し合いで町家を残した売買、賃貸など、より適正な判断材料を提供する。所有者の相談に応じ、適切な情報を提供する「京町家相談センター(仮称)」には、もちろん京町家ネットと京都府宅地建物取引業協会が全面的に協力する。だから、京都市には市への通知を義務付ける条例を検討してほしいのである。もちろん、宅建業協会の皆さんはご商売の中で町家所有者の相談を受けたら、早速この売買・賃貸の可能性をお伝えする。

 宅建業協会の皆さんはご商売として協力する。町家を求める客が多いのだから、客の求めに応じるため一軒でも多くの町家を紹介したい。町家を壊してマンションが建てばディベロッパーは仕事になる。でも京町家が失われ、その分京都の魅力、通りに建つ町家の町並みが失われる。東京や大阪のディベロッパーはそんなことは気にしない。でも地元に店をもつ宅建業者は、町家が並ぶ京都の魅力が損なわれれば、地元の店や住民が衰退することを知っている。全国どこにでもあるマンションだけが建ち並ぶ街にはしたくない。この宅建業協会の皆さんが本来の街を守る役割を果たすお手伝いを京町家ネットは望んでいる。

 とはいえ、今でも大通りに面して高度規制31m、容積率600%のマンションが建つ敷地の町家にはディベロッパーが高値を付けるだろう。そんな場合でも、もう一つの方法、町家再生の取引の可能性を所有者に伝え、町の魅力を守りたいという気持ちを尊重できないか考えていただきたい。それでも町家の除却がどうしても避けられない場合は、消失する町家の記録を残すことを義務付けてほしい。

 この仕組みは、できれば京都市の条例として定めることができないかと考えている。条例では、町家除却の前に京都市と相談する3か月程度の期間を設けること、また不動産事業者も町家の除却を避け、町家の保全と再生に努めることを努力義務として定めてほしい。京都府宅建業協会の全会員は、町家所有者に売買意向をまず京都市へ通知をするよう働きかけたいという。

 この仕組みによって、京町家の保全再生が一層進展するだろう。何よりも町家の新旧所有者・住民の町家を守る意思を尊重することができる。同時に不動産市場の適正な価格で町家を受継いでもらう。守るからといって損はさせない。こうして、地域社会に一つでも多くの町家が残され、町家住民が増えることで地域も元気になる。細街路に面した小さな町家・長屋に新しい住民が増え、流通の度に改築され防災安全性能が向上する。そして、空き家の流通促進にも効果があるだろう。

 実際には、町家の所有者が遠くに住んでいる場合も多い。その場合でも、地元の不動産屋さんに情報が入れば、この京都市の仕組みを伝え、宅建業協会が力になろうと積極的に働きかけることで除却を止めることができるだろう。

 京町家情報センターに参加した宅建業者の皆さんの活動はここまで大きくなった。町家流通は業界と市民が進める。この民間の取組みを信頼して、京都市は町家住民に強く働きかける仕組みを条例化してほしい。こんな要望を12月18日に門川市長にお届けした。

2016.1.1