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京町家再生研究会

NPO活動と町内会活動の協働

京極迪宏(再生研理事)

釜座町ちょういえギャラリーで開催された町内会主催の
第1回「釜座町懐かしの写真展」(平成23年4月2日〜 20日)
 我われ京町家ネット、とりわけ20年近くになる再生研にとって地域とどのような形で関わり、協働していけるかが大きな課題であり、種々の取り組みが試行錯誤されてきたが、未だその成果を語る段階には達していない。昨今、マスコミでも取り上げられる機会が多い「無縁社会」(特に大都会での)にあって、この閉塞状況を打開するためにNPOがその担い手になり得るのかを検討してみた。
 京町家ネット4会はそれぞれ事務局を持っているが、地域と関連して活動することは殆どなかった。唯一、再生研が事務局所在地の明倫学区の地域活動に関わっており、新町通の建物外観調査等も行ったが、自宅が事務局となっている事務局長の個人的活動に負うところが大きい。また、作事組は作事組が改修工事を手がけた下京区の京町家に創立5年後から事務局を構えたが、同10周年記念行事として学区対象に改修相談を行っただけで、日常活動としてはこれといった実績はない。友の会、情報センターも事務局所在地の地域に密接した活動を行っている訳ではない。
 こうした折に、三条通新町西入にある釜座町町内会が所有する「町家」の有効活用についての相談が同町内会から旧知の再生研に寄せられた。これまで個人に賃貸していたが、借家人が退居したため、再生研のような社会活動をしている組織に貸して有効利用して欲しいという要望である。これを受けて、京町家ネットとして検討を重ねた結果、財務基盤のある作事組が事務局を移転する方向で進めることになり、町内会幹事の方々との協議が始まった。こうした方針を決めたのは以下の理由に因っている。
明治期に遡る京町家であるこの「ちょういえ」の所在地が京都中心部の鉾町エリアにあって、交通至便で人通りもあり、京都市民および観光客へのアピール度が高く、京町家に関する相談に訪れる人達にとっても利便性が高い。
町内会が所有する「ちょういえ」という性格そのものが、社団法人としての作事組事務局に相応しい。
中心的用途として作事組が事務局として使用するが、京町家ネット各会の会合や行事、あるいは京町家ネット主催の事業に利用し、将来的にはネットの総合事務局「京町家センター」として機能させる。
町内会行事、会合にこの「ちょういえ」を活用してもらうことによって、町内会との連携を深め、NPO活動と町内会活動の協働を実践していく。
この「ちょういえ」の改修工事を作事組が担当することは、作事組棟梁塾卒業生の技術検証の場になり、伝統構法を大切にする作事組手法での京町家改修モデルハウスとしての機能を持たせることが出来る。
「ちょういえ」を活用して京町家に関する社会教育プログラムを実践する。
 このプロジェクトは作事組が賃貸することで合意が得られたが、改修工事資金の手当を巡って難航し、一時中断を余儀なくされた。その後、京都市とともに企画した「京町家ニューヨークシンポジウム」を契機に、京町家がWMFのいわゆるウオッチリストに登録された。そして、米国フリーマン財団の助成を受けることによってようやく資金手当ての目処がつき、改修工事が無事完成して、昨年11月に作事組事務局が移転した。この間の詳しい経緯については本誌「京町家通信」に、また改修工事の詳細については「釜座町町家再生通信」に掲載されており、さらにビデオによってビジュアル化されているので、それらを参照していただきたい。
 作事組事務局が釜座町町家の賃借人となることによって、京町家ネットは活動の拠点を地域に置くことが出来た。今後、地元町内会および町内が属する明倫学区まちづくり委員会と協働を進めていくことになるが、まずは町内と学区の現状は概ね下の通りである。
 町家の廃却→マンション、事務所ビル、コインパーキング
 商業の衰退→飲食を主とした町家店舗
 家族社会の崩壊→町衆住民の転出、独居老人所帯の増加
 こうした状況は「無縁社会」を生み出し、町内会活動を形骸化させている。マンション住民が増えたことによって人口が増加した地域もあるが、決して町衆住民が増えたわけではない。古くからの住民とマンション住民間の町内会意識の落差は著しい。NPOが地域に根差した活動を積み重ねていくことによって、新たな町衆住民を誕生させて地域に力を付けていく。
 京町家ネット4会の総力を挙げて、次の事業に取組みたい。町内の空き家については買取、賃貸とも職住一致を基本として紹介、斡旋を行う。独居老人所帯へ働きかけて空きスペースに同居人を世話する。放置されている裏長屋を総合的に改修し、需要に見合った流動化に取組む。商業利用を終えた大型町家についても、公共利用での用途変更を研究して提案する。
 更に、「ちょういえ」活用を軸とした社会教育プログラムを進めていく。町内の小学生を対象とした町家教育から始め、それを明倫学区に拡大して地域の小学校を巻き込み、更には京都市を対象として教育委員会に働きかけ、生涯教育にまで拡張させる。これらは町内会と協働することで一層の成果をもたらすものである。こうして町内会活動を活性化していく中で、極めて難しい課題ではあるが、マンション住民をも町内会活動に導き込む土台を築いていく。
 地域に根差し、地域と協働するNPO活動が町内会活性化のために役割を果たすことによって、かつての町衆が築いてきた町衆自治が、新しい市民社会の中で町内会自治として甦ることを期待したい。
2011.5.1