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京町家再生研究会

設計施工交流会の歩みと建築実務者協議会の役割

木下 龍一(再生研究会理事) 
  京町家再生研究会、建築工業協同組合、建築士会の三会の有志で、京都の木造建築振興の為、設計施工交流会なるものが活動を始めて、はや7年が経過した。毎年会員からの提案により、町家再生現場見学から、工法、法制度の研究報告、防災やシロアリ対策の研修、美術工芸の講演等、年に5,6回程の集まりを持ち、京都商工会議所からの支援も受け、関西圏の歴史的建造物を見学するバスツアーを並催して、議論と親交を温めてきた。会のメンバーは、大工棟梁や建築士、工務店経営者等、木造建築の専門家が中心であるが我が友の会の松村会長や小島事務局長も参加して、議論に加わっている。特に町家再生については、京都市域の様々な活動組織が実践する具体例を見聞して大いに討論し、意見の違いや共通の意識を持つ事が出来、地域の多様な建築活動の実態について、共通の認識を持つ機会となっている。
 平成21年度は、月の桂改修現場見学会(第1回)、大仏師江里康慧氏講演会(第2回)、山陽道矢掛本陣石井家及び吉備津神社見学会(第3回)と、今年1月9日の「建築基準法を考える」研修会(第4回)を行った。この会は、景観まちづくりセンターの協力を得て、会場として地下1階のワークショップルームを借り、オブザーバーを含め31名が参加し討論が行われた。そして会に先立ち、再生研の1月例会としての、祇園南にある茶屋、津田楼の改修現場見学会が同日に催され、夜になって新年の合同懇親会で長い一日の交流会となった。


意見交換会の様子


 「建築基準法を考える会」には、京都市の建築指導課、景観政策課と住宅政策課から、4名の若手行政マンに出席して貰った事で、設計者、施工者という実務者側の立場の違いだけでなく、建築行政側の立場も含め、地域の建築制度を立体的に議論する会になりうる事が実感出来た。平成19年度6月に改正施行され、現行制度になった改正基準法は問題を沢山かかえており、今全国レベルで批判にさらされている。構造計算偽装問題から、建築界が国民不信の対象となり、それを払拭するために建築確認と検査を厳格化し、指定確認検査機関に対する監督の強化を求めたものである。それと同時に建築士に対する罰則の強化と、住宅の請負者や売り主に対する瑕疵担保責任の充実が計られている。その内容はそれまで真面目にやってきた設計者や施工者に、今迄の数倍の提出書類の作成義務が求められ、重積する規制項目全ての書類上の整合性を求めるあまり、現場の施工段階で、施主や施工者と予算に応じて協議し深めてきた内容を、全て先行して決定し、書類化しなければならなくなっている。従って時間がかかると同時にと責任が重くなり、本来の設計作業の自由さ、創造性が失われかねないという意見がある。罰則の強化等、本来建築士の責任を自覚する誠実な設計者には、何ら恐れることはないのだが、木造伝統構法の様な、施工者の人格や経験と密接に関わる技法や材料選択の余地を、予め用意された最低基準の仕様や、単純な金物工法に規定されるのは残念至極である。改正法のしわ寄せは、全てコスト負担増や、実現される建築の質の低下として、建主である国民自身に跳ね返ってくるばかりではないだろうか。特に私達京都に於ける設計施工交流会で今迄問題にしてきた、伝統構法による町家や民家の保存再生、或いはその精神を継承する町家民家の新築行為を実現するためには、対立条件として機能し続けることになる。施工する大工術と相いれない構造計算を、更に他の機関で適合性判定を義務付ける改正法のおかしさは、耐えがたいものが感じられる。
 現在国会では、この改正基準法の正否について議論が開始されており、現政権の側から早速再改正の方向性が唱え始められている。確認申請の必要書類を少なくし、確認に要する時間を短縮して罰則を強化するという。この基準法再改正にはすぐさま賛成したいものではあるが、本当はより内容を確かめた上で、地域主権の下に各地での実務者を含めた協議により、地域の特徴のある建物の仕組みに沿って、しかるべき内容の改正をすべきではないかと考える。特に数百年の歴史と文化に育まれた町家や民家を、現代社会に持続再生産してゆく為には、戦後生まれの在来工法の為に開発された、簡易工法や、施工者の理解しない構造計算法の適用は間違っており、別途基準法の中に伝統構法の存続適法性を公認すべきではないかと思うのである。その事を京都という地域で協議し、確認する場として、設計施工交流会の様な、実務者と行政者の協議する場が必要不可欠であり、地域の建築内容の認定機関の役割を荷ってゆくべきではなかろうか。江戸、明治、大正の各時代や昭和戦前期までを通じて、木造建築の創造と維持再生産を支えたのは、建築家としての大工棟梁であった。設計者、建築研究者、或いは建築行政に籍を置く者も広義の建築家ではある。しかしながら実学としての伝統建築の本質を見極め、将来、社会の中に持続的に町家や民家を保存再生してゆく為には、主体者としての大工棟梁を交えた実務者を中心とした地域の協議機関が、正当な社会的任務を荷ってゆく必要があると考える。

2010.3.1