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京町家再生研究会

京町家の研究の持続性

宗田好史(京都府立大学、再生研理事) 
 今や、町家再生は京都市の看板事業となり、景観に限らず、都市計画局以外の部局の事業でも取上げられる。最近は、「環境モデル都市」のシンボルとなった。これは、国の地域活性化本部が低炭素社会実現に向け、温室効果ガス大幅削減を率先するモデルとして、昨年7月にまず6都市を、今年1月追加で京都を含む7都市を指定したもので、京都議定書の地である京都市は、その指定を強く望んでいた。

 全国のモデルたるべく、市は大胆な削減に向け、喫緊のシンボルプロジェクトとして、
(1)歩いて楽しい街、
(2)景観と低炭素が創る品格あるまちづくり、
(3)Do You Kyoto? 地球市民総行動を挙げた。

 この(2)には、景観と調和した省エネ建築基準策定と、最先端技術活用の「平成の京町家」事業化の2つの柱がある。そこで、大谷理事長が加わる「木の文化を大切にするまち・京都」市民会議が発足し、その中に「平成の京町家検討プロジェクトチーム」がスタートした。平成京町家とは「景観・低炭素ハイブリッド型住宅」と言い、京町家の知恵と最先端技術の融合で低炭素化を実現、京都の景観にマッチした住宅を指すという。
 最近の環境論議では、持続可能性より低炭素がキーワード、再生可能な地場産材を用い、エネルギーもコストも少なく長寿命の住宅を建て、大切に使う。また、京町家の暮らしは、自然、家族、地域との関わりが、環境性能の面で優れているという極めて希望的な観測による。理念は正しいが、実現が困難なことは、再生研17年間の活動からもよく分かる。大きく分け、「建て方」と「住み手、住まい方」の二つをどう育てるかが、再生研自身の課題でもある。
 (1)の歩行者優先の道路・交通については、歩きたくなる街づくりのため、京町家のお宅が協力している。都心駐車場などを通じて脱自動車の論点も論考で紹介した。(3)の地球市民総行動は「環境に優しいライフスタイルを考える市民会議」が発足し、マスコミが特にコンビニの夜間営業問題を中心に報じた。そして、ここでも伝統的な町家暮らしの知恵に学ぶライフスタイルが検討された。だから両方とも関連はあるが、何と言っても(2)木の文化と平成の京町家は再生研の中心的課題である。
 まず、低炭素社会では、都市といえど、再生可能な木の住まいが相応しい、それも長寿命化のために、伝統構法・在来工法、それぞれを再評価した合理的な構造・工法が不可欠だという。また、その形を活かしつつ、地域の個性、町並みに対応した意匠を備えた新しい京町家を実現しなければならない。さらに、木の家には、適切な維持管理が必要で、家族や社会の仕組みが急変する中、新旧町家流通の仕組みが要る。それを個人でも行政でもなく、市民社会がどう分担するかという課題がある。ここまで書くと、だから再生研は一早く、作事組、友の会、情報センターを作ったということになる。市の方がこれほど明確に、従来からの再生研の主張を踏襲すると、小舅・小姑根性が出てきそうだ。
 ここまでは我々も一定の筋道を示した。しかし、未解決の課題も挙げられている。建築基準法など法規の問題がある。また、市内産材の供給については、再生研は2004年に京都府農林水産部林務課委託で「京町家の建築用材に関する基礎調査」をまとめた。現在府内で使用される木材の内、府内で生産されたものは13%程度に過ぎない。国産材の内では府内産は比較的多いが、実際に使用する木材の8割は外材に頼る。再生工事でも外材が多い。量的には府内産材を使用することは可能だが、生産流通の仕組みの問題も分かっている。
 また、エネルギー消費についても、環境・設備での研究は途上である。一方、新デザイン基準で屋根にソーラパネルが載せにくいという声もある。そして、12年前のトヨタ財団助成町家調査から、1980年代から90年代までの急速な町家喪失で、都心街区の木造建物敷地面積比率は、多いところでも3割を切り、大半が0〜20%になったこと、その結果、緑被率はこの間だけでも半分に減ったことが分かった。町家が壊され、緑が消える。マンションは屋上すら緑化しない。その谷間で、大半の緑を失った後に暮らす町家住民には、過酷な環境になった。だから、緑を繋ぎ、風の道を通す必要がある。地区計画による解決が要るだろう。地域の皆さんと町家を活かす地区計画を立てる活動は、再生研の重要な柱である。
 そして、これら建て方の問題に加え、残された最大の課題が住み手を育てる点である。情報センター、作事組の活動を通じて、新旧町家住民と濃密に語り、友の会に集う皆さんが町家暮らしの新しい価値を見出した。だから、その経験と知恵から環境モデル都市の市民行動を見出そうというお気楽なことは言わないが、世間の注目が集まっていることは、皆さんご存じだろう。再生研の活動で我々が主張したいことは地球環境ではない。しかし、21世紀の日本が抱える複数の重要な問題の一つであるがゆえに、町家とも接点ができた。そして、この問題の根底に、我々が目指す、より大きな暮らしと社会のあり方に対する課題が横たわっている。
20 09.7.1