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京町家再生研究会

新景観政策──大切なのはコミュニティでのルールづくり

木下 龍一(再生研究会理事) 
 今年3月13日、京都市新景観条例が成立し、5ヶ月の周知期間をおき、9月より施行されることになっている。

その内容は
 市街化区域全体で建築物の高さ制限を見直し、規制を強くする。例えば中心街区の幹線道路沿い「田の字地区」の高さを45mから31mにし、幹線道路内側の「職住共存地区」では、31mを15mに引き下げる他、山沿いや河川沿岸地区等でも高度規制を強化する。更に世界遺産に指定された市内の重要な視点場等38ヶ所からの眺望景観を妨げる建築物を規制する。
 市街地全域で建物の形状や色彩、周りの植栽等について、それぞれの地区の景観特性にそって、デザイン基準を設定する。
 市内全域で屋上広告や点滅式広告を禁止する。広告の表示面積を縮小し、違反広告の取締りを強化する。逆に優秀な屋外広告物の許可期間の延長や許可基準を緩和する。
 京町家等、景観重要建造物の指定件数を増やし、歴史的町並景観の面的な保全再生を図ってゆく。

としている。

 歴史的市街地の建築物の高さについては、私達は15年前京町家再生研究会発足当初より、ずっと一貫して、ダウンゾーニングが必要であるといい続けてきた。今回やっと一つの成果に到達した。しかしながら、今、2階建の町家と隣接する建物が、ギリギリ調和とバランスを考えられる範囲の高さに戻ってきて良かったという安堵感と、既に界隈の美しい町家を失い、膨大なボリュームの高層ビルに取って代わってしまったという喪失感が、同時に去来し複雑な思いである。

 デザイン規制に関しては、町家の外観をベースにして、景観の指標が出てきたのかもしれないが、私自身はその歴史的根拠や町並景観を維持してゆくコミュニティのルール、住民の生活文化や情緒等と複雑に相関する要素を含むため、地域での話し合いや協議会の討論を経て、時間をかけたルール作りをする方が良いと考える。今後の町家再生活動の中でも、保存された町家の近隣に建つ新町家の計画事例が、数多く出現してくる事が推測出来る。作事組や友の会で実践している町家改修見学会の様に、住み手、作り手と近隣の方々や、興味を持つ市民の方々で、町家の成り立ちや仕組みを共同で学び伝える活動を、新しい建物のレベルにも展開してゆけば、景観と調和する形態や材質、色彩も共通理解の形が見えてくると考えられる。歴史的事実としても、町内のルールであった近世の町式目(ちょうしきもく)や町掟(まちさだめ)の中には、京都中平準化出来る事柄が記録されていたはずである。急ぎ足で決定する基準や制度化は現行の法規制がはらんでいる矛盾の様に求める事と筋違いの結果を招く事が多くある。歴史が自ら証明する様に、長い時間の中から本質を読み取り、少ない言葉でルール化するのが、ベストではないだろうか。近年確かに創造性を残すという言葉で、個々人の自由を認め混乱と無秩序の日本独自の近代都市を増殖し続けている現況から、速く脱皮しなくてはならないのだが……。

 当研究会では、現在まで蓄積した資料、経験を基にデザイン規制の内容について提言するために、議論を開始すべきだと考える。新聞記事によれば、6月中に出されるという新町家耐震診断法や、改正基準法についても、広く検討すべき問題が内在するはずである。
 景観法や建築基準法の理念は、共感するものであっても、現行制度の正否の検討と訂正についての速やかな対応は、望めないものだろうか。不適格建築物の増加とその保全活用を求める社会的文化的経済的要請の間に、迅速に橋渡しする事が肝要ではないだろうか?
 広告物規制については大賛成である。京都にふさわしい知的で奥ゆかしい広告が、歴史的風景の中に納まって欲しいものである。

 最後に、京町家の保全については、新景観条例は多くの事を語ってはいない。地域の景観特性に沿った歴史的建造物をリストアップし、重要景観建造物に指定して、相続税を軽減し、基準法の適用を受けず改修できる制度化と、歴史的街区全体にその数を増やし、点から線、線から面へと展開してゆく方向性が抽象的に推奨されている。それが成立するためのプロセスには、地域住民やNPO組織の人間の参加や活動の積み重ねが重要な役割を担うこととなる。しかしながらこの制度は、既に2年前、景観法が成立した後、行政側の手続きで市街地景観整備条例を改訂した形で、早速実行段階への移行が準備されていた。京町家作事組で改修工事をさせて貰った、東本願寺門前の町家の外観改修は、本願寺・東寺界わい景観整備地区に於ける界わい景観建造物に指定され、600万円の公的補助を受ける事が出来た。施主にとっては大変有難い事であったと思われると共に、今後建物を大切に守ってゆくプライドと責任を感じられた事と思う。ただそれ以外の地域へ広く展開していくという新景観政策の効果が本来の意味で、歴史都市京都全体の保全再生に現われるとすれば、私達市民活動グループのネットワーク活動と、景観整備機構や、各地域に育ちつつある景観協議会の活動が、スムーズに連動出来る様な将来において、可能なのかもしれない。そこまでの道程は長いと思われる。

2007.7.1