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京町家再生研究会

京町家の新年

小島冨佐江(再生研究会事務局長) 
 いよいよ京都のまちなかも木造で家が建てられるようになるそうな。春からは建物の高さ規制も厳しくなり、今後はビルがどんどんと減少することになる。今まで、既存不適格というレッテルを貼られ、肩身の狭い思いをしていた京町家がこんどはメジャーになるという。京町家再生研究会への問い合わせ電話が殺到して、対応に追われているという初夢を見た。

 京町家再生研究会が活動を始めてから今年の7月で15年を数えることになる。地味な活動を続けていると思っていたが、昨今の町家を取り巻く環境は大きく変わった。京都をテーマにするために町家は不可欠。伝統、文化、まちづくり、観光、どのジャンルにも顔を出す。いったいどうしたことだろうと、狐につままれたような思いをいだいているのは、私だけではなさそうである。町家に光があたるのはありがたいことではあるが、それに振り回されるようになっては元も子もないので、気分を引き締めて相変わらずの活動を続けようと思う。

 町家についての取り組みはここ数年活発になっている。一番大掛かりだったのは、振動実験である。本物の町家を移築し、振動台に載せて、地震の揺れを起こし、状態を見るという実験が行われた。テレビのニュースで町家が大きな台の上で揺れているのをご覧になった方もあるだろう。ある程度の補強はされたものの、大きな揺れにも耐えた町家を目の当たりにして、思わず「よおがんばったなあ」の言葉が口をついて出たことを覚えている。数年前には土壁の耐火性についての実験もあり、町家が本来持っている能力をきちんと見直そうという方向性が見えてきている。多くの手によって、あらゆる角度から町家への取り組みが生まれ、今までできなかったこと、見えなかった部分が解き明かされていく。ばらばらに動いているように見えていることが、町家というテーマの中でひとつにまとまりつつあるように思える。伝統的な木造住宅のひとつである町家を解き明かしていくことで、技術や文化、暮らしがどのように営まれ、受け継がれてきたのかが見えてくる。居住者としては、多くの方々のご尽力に感謝しつつ、今後の成り行きを楽しみに待つことにしたい。

 さて夢の話の続きに、我が家の未来について少し紙面をお借りしたい。昨年夏に表部分をお貸ししていた店舗が退去された。長年の使用で多くの部分が傷み、修理を余儀なくされている。がらんとした店の間をながめながら、どのような修理方法がいいのか、どのような使い方がいいのかを考えている。じっくりと時間をかけ、この家と向き合ってみたいのだが、せっかくの機会なので、この家が教えてくれることを多くの仲間と共有したいと思っている。長年の使用で、あちこち厚化粧をされた部分が多くあり、そこを丁寧にはがし、本来の形をあらわにすることに少し時間を割きたい。いつも気になっていた中庭もこの際復活させたいと思っている。床を張って、屋根をつけただけと聞かされているが、はたして床をめくったら庭が残っているのだろうか。表の蔵の前にも廊下が回り、天井は空いていたということだが、雨じまいはどんな風になっていたのか、すべては「剥がす」ことから始まる。

 表通りに対しての顔はどのように整えるのか、これも大問題である。格子を元に戻し、駒寄せ、ばったり床机、かつてあった部品を集めなおすことからが始まりである。急場しのぎでいつのほどにかペンキが塗られている柱や幕掛けも「洗い」の必要がある。表屋の二階に上がる階段も元はどのようなものがあったのか、二階の部屋はどのように使っていたのか、かつての図面や現場から読み解かなければならないだろう。梁や柱、天井裏、床下から何が見えてくるのだろうか。築107年の間に加わったものを引いていくことで、当初の姿がようやく現れてくる。大変な作業になることが予想はされるが、復元という形でこの家に新しい血が流れ出すことは、喜ばしいことである。

 改修にあわせて、ひとつ気になっていることは、この家の表屋造りとしての本来の機能をどのように復活させるかである。商いをしていた家としての活気、人の出入りをもう一度取り戻せるのかどうか、多くの町家が悩むところであるが、この家も同じ悩みを抱えている。家族の形態も変わり、暮らし方も変わりつつある家でどのように町家の機能を生かし続けられるか、住まい手が一生持ち続けなければいけない課題であるが、それも人生の中での糧としてみれば、これほど楽しいことはないのかもしれない。

 今年の春から京都のまちなかは建物の高さが厳しくなり、15mという枠がはめられる。京都市がようやく重い腰をあげ、景観を再構築ということだろうか。初夢はまんざらうそでもなさそうで、京都市のがんばりにもエールを送りたいと思う。

2007.1.1