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京町家再生研究会

京町家の住民は今!

宗田好史(再生研究会理事) 
 トヨタ財団研究助成による町家悉皆調査から10年近くがたち、京町家をめぐる情勢も大きく変わってきた。当時、建物調査に加え住民アンケートと訪問ヒアリング調査を行い、その結果は報告書にまとめ、再生研の例会をはじめ、その後の機会あるごとに紹介してきた。最近、再生研が追跡ヒアリング調査を始めていることもこの京町家通信でもご報告した。この他(財)京都市景観・まちづくりセンターが昨年都心部町家の追跡調査を実施した。
 10年前の調査では住民の皆さんのいろいろな思いを伺うことができた。その中で特に特徴的だった点は、そのお住まいを「町家」と思わない方が多いこと、つまり長屋や仕舞屋、看板建築などは再生する以前に、住民からは町家と意識されていないことが印象的だった。また、行政への不信、将来への不安なども極めて深刻であり、その不安には周辺環境(マンション増加)、税金、修理修繕の問題が住民の皆さんの抱える三大問題であるとした。
 修理修繕は、再生研の活動が広がり作事組ができ、京建工など活動の輪も広がった。地価の下落で、よほどの規模のお宅を除き税金問題は沈静化した。そして、マンションについても、昨年の京都市職住共存特別用途地区建築条例の施行以降、都心部の内側部分については着工数が激減した。また町家ブームが過熱したため、手荒ではあるもののどんな建物でも町家レストランなどに転用され、町家については古典的な意味と商業的呼称が平行するようになった結果、町家の範囲は急速に広がっている。
 ではその後、住民のお気持ちは変わったのだろうか。現在、京町家まちづくりプランの見直し作業が進み、京町家ファンドができる中、昨年来のアンケート調査に記載されたご意見を読む機会が増えた。その内容はたいへん気がかりなものである。
 まず、行政への不信感は変わっていない。その背景は、都市計画制度、町家の町並みの継承を否定するように定められた土地利用計画、具体的には容積率と高さ制限がマンションとビルのためにある商業用途地域指定と、伝統木造を否定する準防火地域指定である。また、伝統的建造物群保存地区や歴史的意匠建造物として修景助成が行われているのに、それが市内のごく一部で不公平だというご指摘もあった。街の将来ビジョンが分からない、マンションなのか町家なのか、実はその共存がビジョンの内容であるが実に分かりにくいという。確かに、町家を認め、残す根本的な改革は避けられないだろう。
 そして一部には、町家は観光対象という認識ある。欲しているのは観光客だけで、多くの京都市民は町家で不便な生活を強いられていると思っている人がいる。町家暮らしの多大な負担を住民に強いて、観光振興を迫られていると理解している。それだけではない、町家に価値を見出している住民が増えている、町家という選択には実りがあることを伝える必要がある。
 中には、隣地のマンション建設など建替で受けた被害補償が受けられない悩みを書かれた一人暮らしの高齢者がおられる。無責任な建築業者、非常識なマンション会社が住民に大きな災いを撒き散らす中、この方たちを守る術もない。昔と違い、マンションの谷間で町家を守ることには障害が多く、耐震性の不安も増加している。店舗化した町家も隣地に迷惑をかける場合がある。しかし、相談する相手がいない。これまでの相談窓口では決して十分ではないのである。
 しかし一方で、この町家を残したい、住み続けたいという方々は決して減っていない。そして、町家が好きで住み着いた新住民も目に付くようになった。諦めずに町家を守るという前向きの意見は確実に増えてきた。
 不安と不信を持つ住民は多い。それを取り除くためには、まだまだ手間暇が掛かる。しかし、この手間を避けることなく京町家と京の街の再生はないと思う。その点、行政にできることは少ないのかもしれない。一つ一つの町家は個人の家であり財産である。その取り扱いに外部の者が関わることには限界がある。親戚や友人でもない、行政が関わるとなるとさらに難しいだろう。だから再生研でなければできないことは多いと思う。遅々としてではあるが町家再生が進む一方、町家ブームが置き、ついに町家バブルだと新聞に書かれた現在だからこそ、再生研の役割は一つ一つの不安と不信を取り除くことにあると思う。
2005.11.1