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京町家再生研究会

「京町家の証券化」という試み

吉井英雄(再生研究会会員/公認会計士) 
1.はじめに
 京町家の保存・再生・維持の大きな阻害要因のひとつが経済的な理由であることはすでにあちこちで指摘されてきたところですが、このたび、いま経済界で注目されている「不動産の証券化」という新しい金融手法を使った町家保全の資金調達が検討されていますので、その概要をここに紹介したいと思います。

2.不動産の証券化とは?
 不動産の証券化(Securitization)とは、アメリカで開発された金融手法で、企業などが保有する不動産を「特別目的会社」(Special Purpose Company;以下SPC)と呼ばれる別会社に移し、その不動産から生まれる収入(キャッシュフロー)を裏付として、社債や株式などの有価証券を発行することによって資金調達する仕組みをいいます。証券化にあたってSPCが購入する不動産の価格は、その不動産が将来生み出す収入(賃料収入や売却収入)を予測して決定されますが、安定的で多額な収入を生む不動産ほど、投資家に高い配当ができるため、高い評価額がつき、多額の資金調達が可能となります。日本ではここ数年の間に証券化関連法規が整備されたこともあり、主に首都圏を中心にオフィスビルや賃貸マンションなど一件あたり何百億円という規模の証券化が次々に行われています。

3.京町家証券化の可能性(国交省の調査)

 さて、昨秋、この証券化手法を応用して京町家保全のための資金調達ができないかという国交省の調査が行われました。当調査には、京都市、京都市景観・まちづくりセンター、京都不動産投資顧問協会の方々らと共に京町家再生研究会や京町家情報センターからも数名のメンバーが参加し、証券化について一緒に勉強するかたわら、不動産としての京町家自体の特性や流通事情など当調査に寄与する情報の提供を行いました。当調査の結果、京町家のキャッシュフローが大きくないことに加えて、証券化総額に比して証券化コストが相対的に割高になるため、通常の枠組みでの証券化は困難であるが、単に経済性のみを追求した仕組みではなく、京町家の文化的価値を評価してその保存・再生に貢献したいという意志をもった人々から篤志的な資金を集める仕組みを作ることができれば、証券化も不可能ではないということが報告されました。

4.京町家証券化の実現へ向けて
 国交省の調査結果を受けて、参加メンバーから、京町家証券化の可能性があるならば実験的に実践してみようとの提案がなされ、本年4月から、国交省調査参加者とほぼ同じメンバーによる研究会が毎月もたれています。当初計画では、夏頃までには証券化対象物件を数件確定し(総額で最低1億円程度)、秋以降、京町家の保存・再生に関心のある篤志的投資家を募集していく予定でしたが、十分なキャッシュフローを生む適当な売り物件がなかなか見つからないまま今日に至っています。安定的高収入の期待できる優良物件の確保が、証券化実現への第一歩であるといえるため、引き続き鋭意努力中です。

5.おわりに
 町家保全のための「資金集め」という話が出ると、「町家は投資対象ではない」「町家をネタにひと儲けしようというのはけしからん」といった意見を耳にします。確かに行き過ぎた商業主義はいけませんし、証券化の過程で価格高騰(町家バブル)を煽るような高価格をつけることがあってはなりませんが、経済合理性が優先される資本主義経済のもとで吹き飛ばされそうな京町家を救うためには、頭から資本主義的な考え方を否定するのではなく、その本質を理解したうえで、その中で取り入れることのできるものはできるだけ取り入れるという柔軟な姿勢も必要ではないかと考えます。証券化は数ある資金調達手法のひとつにすぎず、これをもって経済的な問題のすべてを解決できるものではありません。しかしながら今まで正面から取り組んでこられなかった京町家を取り巻く経済問題について実践的な面から論議される場ができたことはとても意義あることであり、今後も継続して研究が行なわれ、一軒でも多くの京町家が救われることが切に望まれます。
2005.1.1