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京町家再生研究会

報告◎京町家の建築用材に関する基礎調査

内田康博(再生研幹事) 
 去る9月11日(土)、京町家再生研究会の例会で、「京町家の建築用材に関する基礎調査」の報告をさせていただきました。参加された方々からは京町家や林業、木、森にまつわる多くのご意見をいただき、充実した例会となりました。その様子をご報告させていただきます。
 この調査は京都府農林水産部林務課からの依頼によるもので、再生研としても積極的に取り組むべき重要な課題として調査をすすめてきました。

自然乾燥中の杉材(美山町にて)
 調査の趣旨は、京都の木造建築の象徴的な存在で ある「京町家」に焦点をあて、京町家とその建築に使われた用材の生産地との関係を明らかにするとともに、京町家の修復・再生に向けて林業(木材生産者)の課題を明らかにすることで、京都の木の文化の復権を目指すものです。
 まず現存する京町家の歴史的変遷をふまえ、京町家の典型例に使用されている木材の樹種を部材ごとに拾い出し、集計しました。平均すると、京町家で使用される樹種の割合はスギ52.8%、ヒノキ20.5%、マツ24.3%、坪あたりの使用木材量は0.635石/坪(2.286石/坪)となり、ともに熟練した大工さんの経験値を裏付ける結果となりました。同時に京町家を改修する際に使用される木材の樹種の割合を集計しましたが、上記と大きな違いはありませんでした。
 また、京都府内で生産される製材用木材の樹種の割合を調べたところ、スギ37%、ヒノキ25%、マツ16%で、京町家の樹種の割合と比較するとスギとマツが少なく、ヒノキが多いことがわかり、京都ではよい地松がなかなか手に入らないというヒアリング調査と一致しています。
 このほか、京都府内で生産される製材用木材の需要量の経年変化をみると、平成2年から平成12年までの10年間で約2/3に減少していることがわかりました。多くの原因のなかで、木材の供給側と需要側の意思疎通が不十分であることがヒアリングの中から浮かび上がってきました。その現実をみすえ、林業家、製材業者、工務店がグループをつくり、既存の流通システムにのらない自主的な流通経路を確保する試みがなされていることもわかりました。
 以上の報告をもとに、京都の木材の流通の実体や、解決の方策の試みなど、参加者の皆様から意見が出されました。京都府林務課からは、奈良産材や岡山産材のブランドの影にかくれ、京都の木が「京都の木」として流通していないということから、今後、「京都の木」を明示してゆくことでブランドとしての自立を目指したり、京都の地場産材を使って京都の家を建ててゆくグループである「京都・森と住まい百年の会」を支援しているということや、「緑の公共事業」として里山を守る施策、木材供給の情報発信を積極的に行っていこうという試みなどのお話をいただき、木材流通や里山保全再生に対する行政の積極的な姿勢が印象に残りました。
 また、京都府立大学農学研究科の田中和博先生からは、京都の林業の特徴について、カナダから発して世界に広がったモデルフォレストの試みになどについて情報提供いただき、京都府でも分散型、ネットワーク型の新しい形のモデルフォレストの試みがはじまりつつあるとのお話をいただきました。
 その他、全体として、木を育てる人、加工する人、設計・施工者、住む人の間の連携の欠如、お互いのことを知らないままでいる現状についての指摘が多くありました。木を育てる人は、いつまでも変わらず、例えば北山杉を作り続けてニーズの変化に対応できず、加工する人は現場で必要とされている材の寸法形状などを知らず、設計・施工者のほとんどは既製品としての木材を売る既成の木材商社から木材を買う以外にすべがなく、住む人は断片的な知識から偏った理想を語りがちであるという現状が指摘されました。例会を通じて、いま必要とされているのは、モデルフォレストでの取り組みのように、川上から川下まで、関係する多くの立場の人が意見を出し合い、フィードバック機能の働く、新しい関係を形成してゆくことであると強く感じました。


2004.11.1