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京町家再生研究会
京町家再生研究会 活動報告

第6回作全協奈良大会を終えて



   2007年開催の第2回全国町家再生交流会で結成を呼び掛け、創設された作事組全国協議会の奈良大会が成功裏に終わった。10年の節目の大会であり、テーマは「住み継ぐための技術と知恵」であった。
   総会では八女から提案された、仲間を増やすとともに地域のネットワークにより面的な活動に展開していくための、地域ブロック設置が承認された。全体会で発表された次回開催地は福岡で、「文化財匠塾」が中心になり、八女、久留米、臼杵、的山大島(平戸)が協力して開催されることになった。
br    シンポでは奈良の努力で約70名の市民参加を得て、市民との分かり合いと協働の趣旨に沿った会になった。問題提起は上野奈良女子大学名誉教授の奈良町家のあゆみと町家の良い面と悪い面(現代の暮らしにそぐわないところ)などが、わかりやすく話された。パネルディスカッションでは大岸さん(造園家)からは地域の植生に沿い、現代の暮らしの要求に対応した庭造りが、京都の堀さん(大工)からは現場で発見される予期しない故障と直し方の工夫が、宇陀の宮奥さん (左官)からは地域の素材や気候条件に合わせた、現場対応の良い加減≠フ納め方の苦労や工夫が、奈良の藤岡さん(設計者)からは解体による納まりや痕跡をていねいに調査し対応すること、かつ空間や意匠を損なわないように現代的要求を挿入・設置する工夫が話された。また職方からは職人不足、資材流通の途絶えなどの問題点も訴えられた。市民の方に奈良町家の魅力や設計者を含めた職方の苦労や工夫が伝わったと思う。

   分科会は(1)「町家の耐震改修法」、(2)「町家の修復再生における職人技術を考える」、(3)「町家・街並みの記録による継承」の3つであった。(1)では瀧野奈良女子大准教授から伝統構法の町家は変形と復元に頼る柔構造で、力の伝達のしくみ、石場建てなどの解析や実験では応答解析がしにくいことが、京都の末川さん(設計)からは京町家の構造の特徴と応答のしくみの試論が、奈良の大崎さん(構造設計)からは限界耐力計算による構造設計とその実例が、それぞれ示され、意見交換では解析法、石場建ての可能性、許認可の手法、改修設計する者の責任などが話された。(2)では京都の辻さん(大工)からは京町家棟梁塾による後継の育成が、八女の中島隆弘さん(設計)からは伝統技術の学習会や材料製作の試み、技能講習、さらに八女産木材を使った住宅の実現などが、金沢の橋本さん(設計)からは市の肝煎である職人大学校の本科、修復専攻科、さらに現場での仕事で学ぶ修復研究会へのステップアップ、こどもマイスタースクールの試みが、それぞれ示され、意見交換では徒弟時代とは違う職人の育成の困難性、異業種とのコミュニケーションの必要性、職人の組織化の困難性などが話された。(3)では京都の南さん(設計)からは改修事例の記録、改修マニュアルの作成、会報を通した広報と記録が、姫路の山田さん(設計)からは格子などの部分から始まった町家や町並み調査と冊子の作製の蓄積が改修第1号の作法につながったこと、奈良の吉川さん(設計)からは毎年行う格子、庭などの部分から町並みさらには海外に亘る調査結果を、パネル展示で公開していることがそれぞれ紹介された。話し合いでは記録の整理・保管・開示及び記録保持者の把握、情報ネットワークの大切さなどが挙げられた。いずれのテーマも議論も作全協創設時からのものだが、格段に調査・改修実績が増え、改修作法や手段が広がりを見せ、この活動の延長上に各地の町家の特性や共通項が明らかになり、町家のとらえ方、改修作法も収斂していくものと確信する。

   4コマ用意された見学会は普段体験することは少ない、きたまち、改修町家、春日大社や社家町、薬師寺東塔改修現場などを見学でき、先史から現代までの奈良を体験し、歴史の重層性を肌で感じることができた。

   しかし何よりの成果は、大会開催受託時は少ないメンバーで細々とやっているので、と控えめであった、なら・町家研究会が、奈良まちづくりセンター、奈良きたまち≠フまちづくりを考える会、宇陀、高畑トラスト、春日大社、奈良ホテルとの協働で成功させ、奈良の町家・まちづくりネットワークを再生し、地域ブロックでの協働という今後の課題の魁となったことであった。

<梶山秀一郎(京町家作事組監事)>

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