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京町家再生研究会
京町家再生研究会 活動報告

シンポジウム「京町家新条例の実現に向けて
―町家をこれ以上壊さないために」開催報告(速報)



 新条例「京都市京町家の保全及び継承に関する条例(仮称)」の課題を整理し、今後の京町家保全継承のあり方を検討するものとしました。当日は約130名のみなさまがお集まりくださいました。ありがとうございました。

■趣旨説明
最初に燗c光雄先生から紹介されたシンポジウムの趣旨説明は以下の通りです。

1.新条例の意義と目的
保全継承にどのような意義があるのか。活用の中身が問題である。

2.所有者や居住者の思い
所有者や居住者が自信を持って京町家を維持する環境を作ることが必要である。町家に住み継いでいくためにはどういう考え方があるのか、どこに問題があるのか。

3.条例でできること
条例でできることとできないことを整理する。

4.流通の仕組みや改修のルール
考え方や問題点を整理する。

5.さまざまなプレーヤーの役割
民間の役割と行政の役割、専門家ないし市民活動団体の役割がそれぞれあり、それらを明確にする。

■パネルディスカッション
強硬論からソフトなルールの提案まで、さまざまな意見が交わされました。主な意見やコメントを紹介します。

◎京都の観光産業は危機的状況である

◎京都市民に京町家をつぶす権利はない
大学や先端産業だけで京都を支えることは難しく、観光産業の恩恵を誰もが少なからず受けている。魅力的な町にならなければ、京都に観光客は来なくなる。京町家は京都の財産であり、国の財産であり、世界のものである。

◎京都市の新条例に関する説明会がうまくいっていないようだ
これまで再生研をはじめ、民間では数々の活動をおこない、実績もある。京都市も町家を建てて消火活動訓練をするなど、他都市にはない取り組みもしている。そのことをきちんと市民にお知らせし、説明しなければならない。条例の本当の目的や内容が市民にうまく伝わっていない。

財産権や相続税、メンテナンスに費用がかかるというが、どんな家でも維持費はかかる。改修も必要になる。お金がなければ部分的に少しずつメンテナンスをおこなう等、しのぐ方法もある。町家だから助成金が必要、ということではない。
ただし、現状、高齢者が困っているという問題がある。相続だけではなく、他の住みたい人に引き継ぐことも必要であり、そのような橋渡し、仕組みづくりが必要である。

◎京町家の価値観を認識する
1.なんのために保全継承するのか。
生活文化の継承のためには、そのベースになっている空間が必要である。京町家の価値は町との関係によって見出されることが非常に重要である。

2.残ればいいのではない。
委員会では保全活用ではなく、保全継承という言葉に落ちついた。活用と継承は違う。なぜ町家が残っているのか。次の土地や床利用がないからだ。改修の程度についても、生活文化が継承できる程度、と考えれば良い。観光も居住も京都にとって必要である。町の中にあるバランスを考えるべきである。

3.流通の仕組みと改修の問題を検討する。
民間の事業者が仕組みを作ってもっと積極的にやるべき。どのような障害があるのか、課題があるのか、具体的に詰めていかないと何もできあがっていかない。

◎流通の問題
1.宿泊施設が増えている
飲食店に比べると柱や壁を抜かなくてもよいので、町家の有効活用としては効率も建物にも良い。ただし、宿泊施設ばかりではいけない。

2.居住用について:リターンだけではない
子育ての長屋をプロデュースしたらウケた。こだわりのある人が購入する。コンセプトが必要。
収益ばかり考えてはいけない。

◎市民の意識
町家を持つ人にとって、町家に住んでいることが力にならないと、京都の町は支えきれない。これ以上つぶさないでおこう、という意思表示をみんながしなければならない。

◎町の力
居住は家の中だけで完結しているのではない。高齢者も子育ても町で考えるという理念でこの条例はできている。

◎行政が上手にさばき、摩擦や対立をおこさないようにすべき
京都市民の意識にも問題があるが、もう一つは行政の問題である。隣接する建物など、周辺の物理的環境の整備は行政にしかできない。規制をかければ良い。
外部資本や観光客数をコントロールについても、宿泊税や環境税などやり方を工夫すれば良いだけである。
「市民が納得しない」というが、行政のやる気の問題にすぎない。官僚は優秀なので、いろいろな解釈でできるはず。

◎京都市の政策をパッケージにする
そのまま維持する場合は、継承すべき技術や資金面の問題を検討する。次の人に受け渡す場合は、どのように市場で流通させるのか、仕組みを考える。ソフトなルールで考えることも必要。

◎仕組みづくりは民間がおこなう
これまでにも空き家相談などの実績がある。以前はボランティアだったが、「相談員が気に入れば、会社名を出してもいい」と京都市が言うようになった。宅建業界270名が協力しているが、仕事になればみんな一生懸命にやる。

◎地域の力と役割分担
行政の規制とルールづくりでは価値判断や仕組みができない。2002年の公開審議会では、まちづくりの仕組みをつくる、町の力をもう一度育てるという議論をおこなった。それを支えるのが行政である。

◎条例後のマッチング
早く作らないとせっかく相談にきてもダメになってしまう。行政だけで取り組んでも無理。行政の限界を見据えて、民間に任せる見極めをしてほしい。仕組みづくりのプロセスは見えなければならないが、これまでの実績を活かしていくことが必要。民間の努力の積み重ねを信頼してほしい。

●連携して一日も早く条例を実現し、仕組みを作っていきましょう!

■まとめ
 当日、来場者からは質問票やアンケートに多くのご意見やご提案が寄せられました。すべてを紹介し、検討するには至りませんでしたが、今後、貴重なご意見を京町家の維持継承、特に流通の仕組みづくりに活かしていきます。

 京町家再生研究会としては、一日も早く条例ができること、そして具体的な仕組みづくりが市民に見える形で進展することを望んでいます。上記のご意見なども踏まえ、今回のパネラーを中心とした京町家ネットのメンバー、そして京都市担当者を交えて、検討会またはワークショップなどを定期的に重ね、具体的な仕組みづくりの実現に向けて活動していきます。また、これらの様子を随時、市民のみなさまに提供するシンポジウムも開催していきたいと考えています。
引き続きご支援、ご協力いただけると幸いです。

 なお、当日寄せられたご相談については京町家再生研究会ならびに関連組織で対応していきます。今回ご参加がかなわなかったみなさまも、ご意見、ご相談など、事務局へお寄せください。

■実施概要
日時:2017年9月3日(日)13時30分から16時30分
場所:メルパルク京都 6階 会議室D
趣旨説明:燗c光雄(京都市京町家保全・活用運営委員会委員長、京都美術工芸大学教授)

パネリスト(五十音順)
 鈴木章一郎 京都市都市計画局長
 燗c光雄
 デービッド・アトキンソン(小西美術工芸社、京町家友の会会長)
 西村孝平(株式会社八清、京町家情報センター幹事)
 宗田好史(京都府立大学教授)

コーディネータ
 小島富佐江(京町家再生研究会理事長)

主催:京町家再生研究会 京町家友の会 京町家作事組 京町家情報センター
後援:ワールド・モニュメント財団、京都市

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