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京町家再生研究会
小島 富佐江(京町家再生研究会理事長)

町家の日


 今年から、3月8日は「町家の日」と決まった。
 
 昨年早々に「町家の日」を決めようという意見が京町家情報センターからあがった。
 
 「なんのために?」「いつが町家の日?」「決めて何をするの?」「町家の日ってなに?」いろんな疑問がでてきて、様々な議論が積み上げられた。加えて、情報センターは京都タワーのライトアップも計画中であり、「町家の日」はそれなりに盛り上がっている。「ライトアップ?」「町家は何色?」「正直、京都タワーの色なんかわからへんし、きがつかへんのとちがうやろか」、「どんなふうに周知するの?」
 
 「町家の日」を巡っては今もいろんな意見があり、落ち着くまでにはしばらくかかりそうではあるが、この議論がきっと「町家の日」の存在を広めていってくれるだろうと考えている。
 
 何かの日を制定するのには手続きが必要で、一般社団法人日本記念日協会に申請をし、認められて「町家の日」が制定された。ちなみにインターネットで3月8日を調べてみると、「国際女性の日」、「みつばちの日」、「エスカレーターの日」、「みやげの日」、「ビールサーバーの日」「さばの日」、「さやえんどうの日」、「サワークリームの日」、「鯖すしの日」、「赤ちゃん&こどもカットの日」と様々な記念日が並んでいる。3と8の語呂合わせがけっこう多く、マーチ(march3月)と8(ヤ)という町家の日の理由もここからである。
 
 この日を記念の日として、さて、何をするのだろうか?「国際女性の日」は歴史的な記念日で、1904年のこの日にニューヨークの女性労働者が参政権を求めて集会を開いたことが理由に上がっていることで、女性の権利を考える日ということだろう。食品はやはり語呂合わせが多く、食品の普及啓発、しっかりと食べてもらうということが珠になるのだろうと思うが、町家はどうするのか?
 
 今年の「町家の日」はまず知ってもらうことが必要であるため、様々な催しを企画している。もちろん場所は町家である。町家に関するセミナーあり、お茶会あり、コンサートあり、いろんな角度から町家を見てもらおうというもくろみである。近年、京都の町家で何かをするということでは、飲食店はあたりまえ、体験型の施設も増え、様々な業種でも町家改造の店舗は増えている。路地の中には宿泊施設があるというのは、まちなかでは普通のこととなっているのもここ数年の大きな動きであり、町家の動向である。が、私たちが京町家の保全再生として長年考え続け、実践していることとはかなりかけ離れている実態があることを、再確認しなければいけないだろうと、この日の意味を考えながら思っている。
 
 京町家の保全再生の意味はやはり、その町家が健全な形で継承されるということが大きな目的であり、筋である。私たちはそれを大切にしながら25年という年月を走り続けている。明治から昭和初期までに建てられた町家という建築に新しい暮らしをどのようにして添わせることができるのか、明治の建物に平成の暮らしをなじませるためには何が必要かを様々な角度から考え続けている。まちなかに建てられた都市型住宅としての町家に詰まっている技術者の創意と工夫、生活者の暮らしの中から生まれてきた知恵をきちんと引き継ぎながら、今の次代を生きる町家として継承することを3月8日の大きなテーマとしてあげたい。見かけは町家、中にはいればマンションの部屋と変わらないという“なんちゃって町家”が増え続けているのを見るにつけ、この「町家の日」を大切に育てていきたいと思っている。
 
 昨年、これ以上町家を壊さないようにしたいという要望書を京都市に提出し、今年にはそれが具体的な形で進むことを切望しているが、壊さないためには健全な保全再生が重要となる。大切な住まいと暮らしを次世代に贈り届けるためには、今一度「京町家」について深く考える機会を持ちたいと思う。3月8日の「町家の日」がその日になることはとてもありがたいことだと思っている。
 

2017.3.1