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京町家再生研究会
西村孝平(京町家情報センター幹事)

京町家の固定資産税を考える

 京都市は京町家の保存・再生を具体的に提示した「京町家再生プラン」を平成12年5月9日に作成し、今日まで16年間かけて再生プランを大きく三つに分けアクションプラン21を実践してきました。私たち京町家の流通の現場にいる業者としては、まだまだ完成度が高いとは言い切れないが一つの指針として機能していると思われます。

 ただ、京町家の居住者が保全・再生に長い住宅ローンを組んで京都市の指針に協力して取り組んでいるのにかかわらず何の支援もされていないのが固定資産税です。見方によれば固定資産税が京町家のリノベーションを阻害しているかもしれません。

 京都市は空き家条例の施行に関しても空き家の有効利用を積極的に推し進める施策を取ってきました。私たち京町家情報センターの会員は京町家が残るためにいろいろと改修の工夫をしてきました。居住用町家の改修は当然としてセカンドハウス、貸家、宿屋、シエアーハウス、マンスリー、店舗等考えられるあらゆる用途に利用できるように工夫をしてきました。  京都市の財務は地下鉄の黒字化も含めまだまだ財政難であると言われています。京都市の税収入の46.1%(平成20年度)を固定資産税と都市計画税で賄われている現状を見ると、固定資産税等の多寡が市税に大きく影響を与えることは間違いのない事実です。

 又、政令指定都市の中では市民一人当たりの平均固定資産税収が6,042円も少ない事も京都市の特徴であり、その主な原因を調べると、土地については土地評価の面積が狭く、そして評価も低く、建物については他の都市と比べ古い木造住宅が多く家屋評価が低いことが原因になっています。例えば他都市の平均の古い木造家屋(昭和38年築以前)占有率は4.7%なのに京都市はその3倍の13.0%になっています。
 
 このような事情を反映しているのか、リノベーションを施した京町家の課税の増額は恐ろしいものがあります。私たちがリノベーションを施した家屋の課税の中で一番安い課税評価は元の家屋の評価の5.2倍です。またアップ率の最も高い評価は元の課税の何と20.78倍です。
 
 固定資産税の評価は固定資産税評価要領により家屋の構造の区分に従い、各個の家屋について評点数を付設し、当該評点数に評点一点当たりの価格を乗じて家屋の評価を求めるものですが、これが地域差や担当の個人差がありすぎとてもまともな評価をしているとは思えない税額になっています。
 
 確かに京都市の家屋評点付設の手引きは総量176ページものボリュームがあり部位ごとに細かい説明がしてあり、根拠としてはしっかりしたものですが、私たちの京町家のリノベーションの費用については多少の差があると言っても原価から考えるとそんなにばらつきがあるものではないのに評点数が余りにもばらつきがあります。担当者の裁量による判断基準はバラバラです。わかりやすい例が設備機器です。例えばドアホン(カメラ付き)の標準評点数はA住宅で45,560点なのにB住宅は28,470点です。なんと1.6倍も差があります。価格のわかりやすい住宅設備機器でもこのような差があり、固定資産評価要領では構造材の種類や屋根の材質・屋根の「むくり」の有無や軒の出の寸法まで格差を出し、そして外から見えない断熱材の品等格差まで事細かく書いてあります。これに加え用途別の評価も加わり担当者が事細かく調査することはほぼ不可能です。特に行政区の担当者によりかなり差が激しく、担当者によっては当社ホームページ上で物件につけている商品名を言って尋ねて来る人もいます。これはリノベーションをネットで確認して評価している証拠であり、ネット掲載の売り物件のみをターゲットにした卑劣な徴収方法だと思われます。
 
 私たちは年間600軒以上の解体されていく京町家を残そうと頑張ってリノベーションや有効活用をしているのに、片や非常に内覧ではわかりにくい改装された京町家の固定資産税をあげることに執着しているような対応をしていると思える京都市の姿勢に問題があると感じます。
 
 そもそも京町家の改装はあくまで腐っている構造材や雨漏りの改修や間取りの変更や住宅設備を一新しているだけで新築ではないのです。それだけではなく、有効活用をするために宿泊施設などに用途変更をすると今度は住宅の減免措置がなくなり土地まで評価増になってしまいます。
 
 リノベーションをして京町家を残そうとしている市民に高い固定資産税の負担を強いるのをやめさせられないでしょうか。建築基準法上も過半以上の改装は現行法の遡及適用が適用されるためほとんどの改装は過半以下の改装であり、それに20倍もの固定資産税を負担させるのは酷税ではありませんか。
 
 今まで京町家については「京町家できること集」などハード面では緩和措置が認められています。また京町家の有効活用において、宿泊施設では帳場や従業員トイレの設置に対しても柔軟な対応をしていただいています。ただ改修においては増築が認められない、厨子二階の居住性の悪さを克服できないなどいろいろと新築に比べ建築基準法の足かせがあり快適性を犠牲にして改修しているのが現状です。
 固定資産税については他の地域においてもリノベーションをすることであまり高い固定資産税を徴収しているところはないように聞いています。建て替えではないのでそこまで調査出来なのかもしれませんが、街並み保全の協力者として固定資産税の徴収に関して厳しい評価をしないようにしていただきたいと思います。
 
 リノベーションは新築ではないのです。あくまで構造を残し住みやすい建物に改造しているだけなのです。何とか固定資産税の費用負担が少なくなるような施策を検討してほしいと切望します。

2016.9.1