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京町家再生研究会
宗田好史(京町家再生研究会副理事長)

町家再生への意欲を新たに—謹賀新年

 新年明けましておめでとうございます。

 さる11月には、「美しい京町家再生」をキーワードに京町家再生研究会20周年記念茶会など、数々の行事に多数のご参加をいただき、まことにありがとうございました。今年も引き続き、京町家ネットの活動にご支援・ご協力賜わりますようよろしくお願いいたします。

 11月には世界遺産条約採択40周年記念最終京都会合が開かれ、ユネスコのボコバ事務局長初め世界各地から大勢のお客様が来られました。文化担当事務局次長のフランチェスコ・バンダリン氏は、たびたび京都を訪れていますが、今回も是非とも美しい京都を見たいと忙しい会議日程の最終日に関西空港に向かう途上、再生研本部、小島邸を訪問され、熱心に京町家の美しさを語っておられました。折から、再生研20周年茶会の準備が進む中、皆さまより一足早く、温かいお茶のおもてなしをいただき、晩秋の町家の庭を楽しんでおられました。

 バンダリン氏は長年、ユネスコ世界遺産センター長を務め、世界各地の文化遺産、自然遺産の保護に取組んできました。小島家に続いて釜座町家に寄られ、旧知のワールド・モニュメント財団のボニー・バーナム会長に写メールを送り、その活動ぶりを讃えていました。

 イタリア人の同氏は、ヴェネツィア大学で建築を学び、米国カリフォルニア大学バークレー校へ留学した後、ヴェネツィア大学で教鞭をとりました。キリスト生誕2千年の聖年祝賀行事準備のローマ市都市整備事業本部長などを経て、ユネスコに転じました。数々の歴史都市の美しい建築を見て歩き、その保存に熱心に取組んでいます。1960年代末にバックパッカーとして初めて訪れた蓮華王院三十三間堂の凛とした美しさをよく語ります。半世紀を経て、ようやく本来の美しさを取り戻しつつある京都に深い感銘を覚え、それを支える市民活動に熱いエールを送っています。また、京町家再生を優れた活動の一つとして、世界各地で紹介しています。

 ローマにあるICCROM(ユネスコ文化財保存修復研究センター)で長年教鞭をとったユッカ・ヨキレット氏も釜座町家を訪れました。再生された釜座町家の美しさもさることながら、その再生の様子を収めたDVDにいたく感激し、その職人さんの清々しい美しさ、壁塗り体験に参加した釜座町のお子さんたちの美しく輝く眼差し、地蔵盆に集うお町内の皆さん方の温かい交流の姿を絶賛していました。こうして、文化遺産の再生・修復が京都の人々の間に広がっていくことに敬意を覚え、また異なった世界ではあるものの、自分も同じく木造建築修復の仕事に携わった仲間として誇りに感じると言っておられました。同氏はフィンランド人、木の建築の保存に熱心な方です。

 さらに、ユッカ氏と同行したICOMOS(国際記念物遺産会議)英国事務局長スーザン・デニア女史は、訪れた大徳寺で魅了されたお庭や塔頭の美しさが、高層ビルが建ち並ぶ街中の住いにも細心の注意で、同じように維持されていることに驚いていました。同女史は、日本の子供たちにもたいへんなじみの深いピーター・ラビットの物語の作者、ビアトリクス・ポターが英国の湖水地帯の美しい住いと農場を、ナショナル・トラストに遺贈した後、現在の姿で保存・公開する再生を指導しました。ニアソーリーにあるポター邸の美しい写真と再生の経緯を記した華麗な本をナショナル・トラストから刊行しています。

 この期間中、京都市内で2回の講演をされました。産業革命の結果、国土の至る所が開発され、大気や河川の汚染が進んだ英国の人々が、最初は地中海やアルプスの美しさを求めて旧大陸各地にグランドツアーに出かけたものの、19世紀の度々の戦乱で、英国内に美しさを求めるようになった。だから、徒な開発を阻止し、美しい町並みや自然景観を守ろうという強い意図からナショナル・トラストの保存運動を始めた、その代表例がポターの湖水地帯であるという話をされました。また、誰もが引きつけられるピーター・ラビットの優しい物語だから、汚れない心になって、美しさを求める気持ちをもつようになるのだというポターの意志を受け継ぐ活動を語っていました。

 京町家再生研究会20周年の記念茶会でも、この美しさがご参加の皆様の話題の中心になりました。その美しさを受け継ごうという精神があるがゆえに、再生された京町家は諸外国の専門家からも異口同音に讃えられます。専門家に限らず、私たち多くの市民は、自然の美しさを望むように、美しい町、美しい家に暮らしたいと切実に願っています。長い間、豊かな社会を造るためにと、便利で機能的であることを求め、町や家の本来の美しさを諦めていました。しかし、今や私たちは足ることを知り、京町家の美しさを再生する活動に取組んでいます。

 幸いなことに、私たち京町家ネットの会員は、再生研本部の小島邸や無名舎・吉田家はじめ、数々の美しい京町家と日々身近に接する機会があります。美しい町家の姿を当たり前に思うほど身近なのですが、それが実は住まい手のたいへんなご努力の賜物であることも知っています。今回の20周年記念茶会で、多くの皆さんとともに美しい京町家で豊かな時間を過ごし、語り合ったことで、京町家再生の意欲を新たにしました。さらに多くの皆さんに共感が広がり、世界各地の客人が絶賛する京町家を再生する活動に加わることの喜びを確認し、新たな年を迎えたいと思います。

2012.11.1