• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家再生研究会
大谷孝彦(京町家再生研究会 理事長)

京町家再生研究会の20年

 平成4年に発足以来、京町家再生研究会の活動はこの7月17日、祇園祭巡行の日を以って20年が経過しました。私自身はこの会の設立のお声がけをしてくださった初代の望月秀祐会長による10年間のご苦労の後、会長を努めさせて頂き、平17年、特定非営利活動組織(NPO)認定後は引き続き理事長に就任させて頂きました。10年をけじめとしてこの7月で理事長を退任し、後を小島冨佐江理事長、宗田好史副理事長、丹羽結花事務局長にお願いいたしました。何かと至らぬ代表でしたがこの20年間は70年の人生の中でも大変重たいものです。ここでは思い出話的に20年を振り返らせていただきます。

 この会に参加させて頂き、町家を改めてじっくりと体験した時にはその落ち着いた雰囲気に大いに感じるものがありました。その後、様々な体験の中で京町家が優れた歴史的建物であり、またそこに一体となった暮らしが息づいていることがより深く見えてきました。

 いくつか担当させて頂いた思い出深い町家再生の事例があります。橋弁慶山町会所は再生研究会としても最初の事例であり、伝統構法の考え方も未熟な面があり、何度も例会で取り上げながら、色々と試行錯誤の状況がありました。しかし、雑誌やNHKに取り上げられたり、神戸大学と連携して水幕防火の実験を行なったりと様々な話題がありました。その後、再生事例の依頼も多くなり、京町家作事組、京町家友の会、そして京町家情報センターが発足し、京町家ネットとしての活動が始まりました。このような活動の仕組は組織マネージメントの経験豊富な理事の知識と努力により実現したものです。各会はそれぞれの会の活動内容にそぐわしい担当者の下に実践的に活動が展開されました。また、時に応じて相互の連携がとられ、まさに有機的なネットワークが展開されました。幹事会やNET会議では喧々諤々の意見交換があり、本当に熱い思いと個性ある方々の集まりという実感がありました。作事組のメンバーとして担当させて頂いた山田邸再生ではご家族の強い思いとご理解のお陰で、私としては現代的な住みやすさや感性をも取り入れながら歴史的建物としての町家再生が実現できたという満足感があります。

 京都市景観まちづくりセンターが主体となって京都市内の町家悉皆調査が実施され、多くのメンバーがリーダー的立場で参加しました。この調査を機会とした個別訪問への展開が思うようにならなかったのは残念な結果であり、また今後この調査のデータが官民通じて有効に活かされることが望まれるところです。行政との連携については民間活動の主体性を基本としつつ、立場の違いを有効に活かしていく仕組が必要です。最近漸く、伝統構法や用途変更に関する法制度について官民両サイドからの意見交換が始まりつつあるようです。

 作事組、情報センターは民間組織の特性として行政にはできない個別町家への対応が可能であり、それぞれ多くの実践事例を積み重ねてきました。また一方で、再生研では地域を目標とした活動展開が端緒に付いたように思われます。釜座町町家の改修がきっかけとなり、ここを拠点として、釜座町町内、更にそれを包含する明倫学区地域への働きかけです。勿論、町家を切り口にした取り組みですが、建物だけでなく、高齢者に係わる居住の問題、まちづくりとしての地区協定、あるいは地域との大きな係わりのある祇園祭関連のお手伝いなどなど多彩な内容の中から地域との強い絆が育つものと思われます。元々、再生研本部である小島家の所在地でもあり、今後の大いなる展開が期待されます。

 この釜座町町家改修についてはニューヨークに拠点を置くワールド・モニュメント財団からの助成支援をいただきました。この支援に至ったのは、京都市まちづくりセンターとの連携事業ではありましたが、ニューヨークにおける京町家シンポジウムに始まり、その後のやり取りや手続きについて再生研事務局長小島さんの大奮闘のお陰です。私もニューヨークには同行させて頂きましたが、あちらの文化財の保存修復に対する支援の半端じゃないスケールの大きさとバイタリティーを感じました。

 町家再生の資金は大きな課題です。助成も必要ですが、まずは町家所有者、使用者の意識と意志が必要です。ニュ−ヨークのある組織の発言の中で資金助成は本人の努力で捻出するのと同額までを助成する、というのがありました。必要資金の半額までで、上限がいくらという発想とは異なる印象でした。今後、歴史都市を名乗る京都においては、この地を基盤とする企業や金融機関の町家文化に対する前向きな姿勢が大いに望まれるところです。

 活動の連携については、京都市内、あるいは更に広域での他の会との連携活動を実施しました。京都から仕掛けた「全国町家再生交流会」は金沢、今井町へと引き継がれています。今後の継続、発展には協力や時には先導が必要と思われます。一方、京都内部においても活動内容の異なる他の団体と交流する機会がありました。思いの通じるところはあるものの、共同歩調を取り続ける難しさもあります。設計士や施工者の方々と進めていた設計施工交流会も少し尻すぼみになってしまいました。京都市まちづくりセンターによる集まりがありますが、やはり目的を共有できる具体の協働取り組みが可能か、というところが要点かと感じます。

 その他、私はこれまでに京都市関連のいくつかの委員会などに参画してきました。委員会参加については色々と意見もありましたが、我々の活動の場以外で日々動いている町家のあり方にも目を向け、前向きな発言を行なってきた積りです。今後、このあたりをどのように考えるかはまた研究会の中でも議論いただきたいところです。

 この20年間に町家に関する状況も随分変わってきたと言われます。一方で、相変わらず失われる町家があります。再生の基本は「継承」であり、そのための人や建物や制度などにかかわる様々な課題があります。20周年に当たり、町家再生活動の原点に立ち返り、そして心機一転、今後の活発な活動展開を願っております。

2012.9.1