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京町家再生研究会
大谷孝彦(京町家再生研究会理事長)

情報の蓄積への意義──全国町家再生交流会in今井町大会に参加して

 今年は3月11日に東日本大震災が発生し、地震と共に津波という大きな災害によって各地の町並みが大きな破壊を受けました。その中で高台や多島の奥にあった歴史的建造物が災害を免れたことは幸いでした。急速な技術や経済の発展が災害を大きくしたという見方もあります。被災地の早急な復興を望みながら、歴史的な建物、町並み、あるいは人のつながりとしてのコミュニティーのあり方を学びなおす必要があるように感じます。

 町家は伝統的な木造建築やその場におけるくらしを残している歴史的資産です。このような町家を保全再生し、地域固有の文化を活かした町並み再生やまちづくりが可能です。しかし、この町家が高度経済成長の中で、また地方においては少子高齢化に伴う過疎化などによって減少していく危機的状況があります。全国町家再生交流会は全国各地の活動の情報を集め、町家再生の意識と手法を共有し、それぞれの活動効果を高めていくことを目的として立ち上げたものです。交流を深め、ネットワークの構築を目指しています。各地の市民活動団体や行政担当者、さらに研究者や一般市民が参加されています。

 すばらしい好天に恵まれたこの10月8・9日、奈良県橿原市の今井町において第4回の全国町家再生交流会が実施されました。「地方都市からの町家再生 つながり、ひろがる町家の暮らし」が主テーマでした。まさにテーマ通り、「NPO法人今井まちなみ再生ネットワーク」、「今井町町並み保存会」の皆様のお世話により、また奈良県建築士会、今井町、奈良県などの「つながり―協力」の下に実行されました。今井町の皆様大変ご苦労様でした。

 平成17年に京都市において「京町家ネット」の主催で第一回を開催しました。平成19年には第2回を、今後の展開へのはずみをつけるために同じく京都で行い、その後第3回は平成21年に金沢にて担当していただきました。「NPO法人金沢町家研究会」の主催、金沢市、「(社)金沢職人大学校」の後援でした。今まで隔年ごとに実施されてきたことになります。準備や経費を考えるとこれが丁度良いペースということでしょう。

 今回までの主題を振り返ると、第1回「町家の再生・活性化による新たなまちづくり」、第2回「町家の保全・再生の意味を問い直す」、第3回「町家の再生活用と流通促進に向けて 誰が何をすべきか」、第4回「地方都市からの町家再生 つながり、ひろがる町家の暮らし」ということになります。再生の理念の確認から実践の手法までが組み込まれています。毎回、各地の活動状況報告、町歩きによる町並みや町家改修事例の見学、分科会における報告と意見交換などが行なわれます。各地の報告はその都度、地域性のある状況が反映され、異なる視点や手法がお互いに刺激になり、参考になります。分科会は町家再生に係わる具体的な課題の情報交換と検討の場であるため、アンケート結果をみても参加者の関心が一番高いプログラムです。居住、技術、活用、資金、制度など、町家の保全再生にとって重要なテーマが毎回、継続して取り上げられています。各地の事情を踏まえ、たとえば金沢大会では空き町家対策が主として取り上げられました。

 この交流会が継続していく意義は活動の広がりと情報の蓄積にあります。拡がりとは参加地域と活動内容の拡充であり、今回のように主催地の周辺地域の協力によってつながりが強化されることがあります。また、「作事組全国協議会」のように新たな仕組みが活動を展開し始めるきっかけとなることもあります。一方、情報の蓄積とは分科会などにおいて毎回継続される課題の検討結果の集積です。この場で得られた情報と議論が各地の活動に活かされ、その結果がまた新たな情報となります。今回の京都市において実施予定の景観重要建造物などに対する「建築基準法第3条第1項第3号の規定活用による建築基準法適用除外」は伝統構法による再生の今後のあり方にとって重要な情報です。広く各地で検討、実行されることが望まれます。このようなその都度の法制度や社会状況の変化も速やかに分科会の議論に反映し、取り組みの議論が可能です。

 この交流会が有効に継続するために、情報や検討結果を整理し、蓄積しておくことが必要かと思われます。分科会報告の後に広く参加者の発言を得る総括の場を設けておくこと、終了後の報告書をとりまとめも有効でしょう。また、全国町家再生交流会の常設の連絡協議会、できうれば事務局のようなしくみが必要かとも思われます。各地の情報が継続的に事務局を通じて発信されることにより、様々な情報入手が可能となり、地域間の連携が深まります。勿論これには人材や経費の確保が必要となり、簡単なことではありませんが、今後、何らかの形での実現が望まれるところではあります。

2011.11.1