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京町家再生研究会
小島富佐江(再生研事務局長)

釜座町町家の再生
一昨年、ニューヨークで開催された町家をテーマにしたシンポジウムについてはすでにこの紙面で報告をさせていただいたが、(09.01「ニューヨークと町家」)今回はその後日談、その後の展開をご報告したい。
 すでにご承知のこととは思うが、昨年秋にWMF(World Monument Fund)が2年に1度選んでいるWatch List に京都の町家が選定をされた。これがどのような意味をもつのかであるが、WMFが世界に町家再生への支援を呼びかけるというものである。日本語では危機遺産という翻訳がされている。危機に瀕している遺産に対し、寄付を呼びかけ保全を促すという取り組みであり、世界の各地で様々な歴史遺産が修復されている。
 日本では2004年に鞆の浦が選定され、支援を受けた建物があり、今回は2例目である。リストに選ばれたからといって、すぐに支援がなされるわけではなく、そこから支援者を募るというのが、WMFの役割であり、どのくらいの時間がかかるのかは選ばれた当初不明であった。また、私有財産についての支援はなく、公的な役割を持った建物という条件もあり、対象物件をどのように決めるかについては悩ましい問題でもあった。個人の所有ではない町家とは? その町家を活用して、更なる町家再生の取り組みを展開していくという企画を考えたが、さて、どのような町家がふさわしいのか。
 一方で、釜座町の町家が空いていて、借り手を探しているという話が明倫学区のまちづくり委員会から再生研にあり、作事組の事務局として借りてはどうかという案が持ち上がっていた。釜座町は何か広がりのある使い方を望んでいるということで作事組の事務局のみならず、京町家ネットがここをセンターとしての活用できればいいという意見がまとまった。この家は釜座町の町内会所有で、明治の中頃まで鋳造業を営んでおられた「斧屋」さんが永代供養をお町内に託して寄付をされた町家で、毎年お町内で「斧屋」さんの供養をされているということも後日伺うことができた。WMFに申請をした企画を進めるために様々な条件を検討したが、歴史的なことも、場所もこの町家がふさわしいという意見がまとまり、まだまだ先行きの見えない計画をお町内の方々にお聞きいただき、この取り組みの行方を一緒に見守っていただくことになった。
 Watch List登録から数か月後、WMFの副理事長であり今回のご担当者でもあるヘンリー氏とフリーマン財団のフリーマン氏が来日された。作事組事務局をご覧いただき、釜座町の町家を改修する計画を現地で説明、そのあと再生研究会本部で関係者のミーティングを行った。その後、今回の企画がフリーマン財団の支援の下、実現されることが決まったとヘンリー氏から説明を受けた。今回のList 登録の中で一番早い事例となったようで、京都側としてもびっくりするやら、うれしいやらという一日であった。
 5月10日に京都市での発表、授与式を終え、いよいよ釜座町の町家改修が動き出した。  6月5日に釜座町町内会の役員さんと再生研・作事組での斧屋さんへの報告の墓参、町家での「かかり初め」をすませ、6月15日から現場が始まる。
 今回の企画は単に町家の改修にとどまらず、その建物を活用しさらなる町家再生の機運を高めることを目的としている。われわれNPOが町内会と一緒になって町家再生に取り組み、ここを起点にしたまちづくりを進めていこうとしている。改修工事の現場見学会はもちろんのこと、町家再生にかかわる様々なことを次世代へ伝えるためのプロジェクトでもある。町家の良さを伝えるためのシンポジウム、勉強会、映像記録など、多くのことが盛り込まれ、町家改修と並行して進めていかなければならない。私たちに課せられた責任は大きい。
 京都のまちなか、お町内が守ってこられた町家を預かり、京町家ネットの拠点として、どのような活動が展開できるか、これからが正念場である。
 今回の企画実現についてはWMF、フリーマン財団のご支援に厚くお礼を申し上げるとともに、2009年11月のニューヨークシンポジウム実施にご尽力いただいた立命館大学教授リム・ボン先生、ニューヨークのジャパンソサエティの皆様に感謝したい。
 京都市景観・まちづくりセンターのメンバーにもあらゆる場面でご尽力いただき、今回の企画が実った。「まちセン」のパートナーシップのたまものである。

2010.7.1