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京町家再生研究会
宗田好史(京都府立大学)

5万軒の京町家調査が始まった
 昨年10月19日にスタートした京町家まちづくり調査が順調に進んでいる。土日休日を使い1月25日までに上京区の17学区を終え、2月14、15両日は南に転じ、伏見区住吉、板橋の両学区で調査が始まった。数えた町家はすでに1万2千軒だという。同時に配ったアンケートもすでに千通以上も返ってきたと聞いた。

 上・中・下京に東山を加えた都心4区が対象だった前回と違い、京都市全域で調査する。これまで2万5千軒と言っていた京町家は、この分なら5万軒を超える。今後、洛中から洛外に出る主な街道沿いに、鞍馬や大原を含む左京区、桂、樫原を含む西京区、山科区も調査し、「田舎に京あり」と言われた名所の数々も歩いていく。
 調査は、京都市景観・まちづくりセンターと立命館大学文学研究科地理学の矢野桂司先生の研究室が主宰し、254名の登録ボランティアさんに加え、京町家ネット、建築士会、京建工、関西木文研などから95名の専門家が判定に加わっている。毎回、3〜4名のグループに分れた8〜16チームが朝9時から午後3時まで活動する。京町家ネットでは、3月8日には、広く京町家友の会の皆さんに呼びかけ、京町家ネット専用の調査日として賑々しく伏見に繰り出す。皆さんにも是非ご予定いただきたい。

 10年まえの調査と違い、今回は機材が充実した。GIS(地理情報システム)で、調査員の手元の端末に現地で入力すれば、建物調査データは即時にまとまり図化される。地図と写真もリンクしている。あの煩雑な長い集計作業がないだけ、楽しい気分で街を歩ける。1998年の調査は学生ボランティアが多かった。今回も立命館大生のアルバイトさんが付いてくれるのだが、大人のボランティアさんが楽しい。手際良く、寒さにも辛抱強く回ってくれる。建築関係の方も多く、次からは専門調査員になっていただいた。調査方法が進んだために、少しばかり余裕を持って街と町家が見られるようになったことも大きい。

 上京区西陣界隈の調査では、毎回と膨大な数の町家に驚かされる。失われた町家もあるのだろうが、西陣では減り方が遅いように思う。実際、路地裏の長屋が各所に残り、建替えは難しそうである。一方今回は、京都市文化財保護課が数年前に調査した近代化遺産を確認してもいる。町家ではないが、立派な近代和風住宅である。数は少ないのだが、こちらの方が意外となくなっている。大きなお宅は維持も困難なのだろう。

 歩いていると、空家が多いことが気になる。電気メータを確認しながら、少しでも回っていれば住んでいるとみるのだが、近所の人から、そこは空家だと教えられる場合も多い。だから、数えているよりも実際の空家の数は相当多いのではないだろうか。また、町家本来の職住併用の形が少ないと感じた。表にご店名を出さずに家内で仕事をする職人さんも多いのだろうが、商売を畳んだお宅が目に付いて多い。看板は出ていても開店休業状態の小さなお店がそこここにある。この10年で京都の街は変化した。織物産地・西陣では、なお一層、町の様子が変わったと感じた。
 路地奥の長屋の調査には時間がかかる。西陣の長屋には、特に平屋が多い。借家も多いのだろう。中には相当痛んで、危険だと思われるようなものが相当数も眼につく。路地裏では、建築法規上、借家でも持家でも維持・修理は難しい。増して、住民の高齢化が進んだ現在の、その負担も難しいことが予測される。そんな袋路では、調査中に住民から話しかけられることが多い。角先に立って調査の様子を見ているご高齢の住民は、息子の車を待っているといわれた。土日でもあり、待つ気持ちも分かる。その路地を我々が調べ終えるまでの小一時間、立ち続けておられた。

 調査中には、日々の暮らしの問題を語ってくださる高齢者とよく出会う。大半の方は、お一人でもその町家、長屋に住み続けたいという。ちょっと話が進むと、この調査の意義やまちづくり一般に関する内容に話題が移る。さらに、具体的に長屋の共同建替えの話も出る。空家の持主も、いつかは戻ってきて利用したいという人が多いと聞いた。だから、街と町家への愛着は衰えていない。これまでもそうであったように、町家は町家住民によって支えられている。

 今回の調査ではアンケート用紙に加えて、支援制度の案内や相談先として京町家ネットなどの活動紹介と連絡先を記したパンフレットを配っている。でも、支援とは文化財級の町家の話で、我家には届かないと思う人、そしてそんなことを考える余裕もない人はまだ多いように感じた。

 いろいろな理由で住み続け、あるいは受継いだ住民の皆さんが望む形で町家のまちづくりが進むために、「今後の京町家の保全・再生のあり方検討会」に京町家ネットも参画し、今回の調査とその活用を考えている。今後、京都市の町家データベースは確実に充実する。それを十分に活かした町家再生の方法を考え出したい。


2009.3.1