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京町家再生研究会
山田 公子(楽町楽家実行委員・京町家友の会事務局)

「楽町楽家(らくまちらくや)」の可能性と今後の課題
 今年で4年目を迎える「楽町楽家」は、2005年6月に行われた第一回全国町家再生交流会のプレイベントとして始めた催しである。会場となったお家の方、コンサートや作品展などをしたアーティストの方々、そしていろいろなイベントに参加されたお客様、それぞれに大変好評であったことを受け、とりあえず5年続けてみようということになった。

 5月中旬から6月中旬にかけての1ヶ月は、京都では葵祭が終わり祇園祭が始まるまでの所謂観光的にはオフシーズンにあたる。物見遊山の観光客が少なく、すなわち車も少なく町を歩きやすい。そして、お店や民宿などは日程的に協力してくださりやすい。また、一般的に入梅は6月初旬のように思われているが、実際に京都市内で雨が多くなるのは6月20日過ぎからで、天候に恵まれ、町家の特徴である風通しの良さや庭の緑の美しさを堪能できる。ちょうど建具替えの時季にもあたり、5月は襖や障子のところが6月は葦戸や御簾に替わり網代や籐筵が敷いてあったりと季節によるしつらえの違いを見ることができる。たまたまプレイベントとして設定された日程だが、結果としては「町家を感じる 町家を楽しむ」催しにとってベストな時季となったわけだ。

 会場となる町家は、基本的には京町家友の会をはじめ京町家ネットに関わりのある、日常的にお付き合いのある町家の方にお声かけし協力いただいている。その数は13軒から始まり、今年は40軒を超えた。催し内容は多岐に亘るが、まずは、そのお家の方が「何がしたいか」を聞くことから始めている。と同時に、そのお家の建物としての魅力を引き出す催しは何なのかを考える。絶対に守るべきこととして、お家の方の気が向かないことはしない、無理をしない、迷惑をかけない、ことである。

 最初の年こそ私たちの方からお願いして会場になっていただいたり、参加していただいたりしたが、年を重ねる毎に「自分の家でも何かしてもらえないか?」「何らかの形で関わらせてほしい」というようなご依頼が増えてきた。何でもを承諾するわけにはいかないので「楽町楽家」の本来の目的を理解していただいているか、あるいは、町家に関してどのような見方、考え方をしておられるかなどをお話しながら探っていく。単にビジネスとして町家を利用したり、あるいは、この催しを広告手段としてのみ捉えておられる場合はきっぱりとお断りする。とはいえ、実際にお断りする方は少なく、本当に良いお仲間になっていただける方が増すばかりである。

 「都ライト」は発案者の若者たちが中心となり2年目からは独立した形をとっている。「掘り出し物市」は冬にも催し「楽町楽家」の資金を稼いでいる。3年目から始めた「ひらめい展」はアーティストの方たちとの新たな出会いを生んでいる。「住みたい町家を探しに行こう」で住処を見つけた若者が「中古建具市」で夏の建具を探し、「都ライト」でほんのり灯りの漏れた街路には自然に人が集まり音が奏でられる。普段何をしているのかわからないと思われていた家が「オープンハウス」でご近所さんと仲良くなる。「楽町楽家」の顔ともなった楽しいイラストのポスターは、京都市内に留まることなく全国各地にファンを増やしている。エピソードは数え上げたら限がなく、またその内容はほのぼのと温かい。

 そんなわけで、4年目の今年、それもまだ準備期間の内ではあるが、ある意味、達成感のようなものを感じているのも否めない。来年の5年目は「楽町楽家」もいよいよ最後、より一層大きな規模での催しをして締めくくろうと思ってしまう。しかしまたその一方、尊敬すべき人生の先輩である女史に「山田さん、続けることが大切なのよ」と言われた言葉が脳裏にしっかりと焼き就いているのも事実である。

 「楽町楽家」は、できれば後を任せる人が出て今後も続けてほしいと思っている。形や規模は多少変わっても、その基本となるべき想いが変わらなければ優れたイベントとして多くの共感を得られるはずである。しかしまた「町家を体感してください」という催しをいつまでもすることは不本意なことである。町家の良さは、わざわざよそのお宅を訪ねなくとも、自分の住まいで充分わかっているという人がもっともっと増えることこそが本来の目的なのだから・・・。「楽町楽家」は、その役目を早く終えるためにこれからも続けていくべきなのか。皆様のご意見を伺いたい。 

2008.5.1