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京町家再生研究会
大谷 孝彦(再生研究会理事長)

15周年を前にして
 京町家再生研究会は平成4年に発足し、この7月17日で15周年を迎えることとなりました。発足当時に比べて、町家への感心も高まり、様々な町家活用が話題を呈しています。しかし、このような状況下において、町家再生を正しく、確実な方向へ展開する必要があり、そこには多くの課題があります。また、研究会の活動のあり方についても、活動方針と体勢をしっかりと確認する必要があります。

 景観に関する基本法としての景観法が施行され、また、京都市における新たな景観条例が展開されつつあります。新条例の高さ規制強化によって町家存続の環境が整備され、京町家の外観要素をデザイン基準に取り入れることは町家への関心を高める効果があるように思われます。そして、さらにこれらの法基準と町家再生をつなぐものはなにかという議論が我々には必要です。

 法制度は基準を定めることによって規制、誘導を行う手法ですが、しかし、そのような基準ができれば全てがうまく解決するわけではありません。美しく、魅力ある景観を創るためには、まずは法基準も必要ですが、しかし、真にそれを実現するためには、それを目指す心が、広く市民の間に共有されなければならないと思われます。京都の歴史を踏まえたアイデンティティが必要です。自然および人工物、それらと人の係わりが積層した時間、すなわち、歴史はその場所の個性ある文化を育み、魅力ある都市を創ってきました。美しい景観は文化の土壌から醸成される。町家と共に歩んできたくらし、職人の技は、町家という建築と共に京都を象徴する文化であり、それらの再生の体験は京都という都市のアイデンティティの根拠となり、従って、美しい景観再生を醸成する根源の力となります。これが町家と景観の係わりの最大の意味ではないでしょうか。アイデンティティというような精神性は所詮抽象的な言葉にしか過ぎないという意見が常にあります。しかし、そのように抽象的と見られる心の世界を現実的なことへと具体化させる意思がなければ、真の景観再生とはなり得ません。文化が主体性を取り戻すことによって、ようやく私の権利よりも美を尊重する公の権利が優先される社会が成立するのです。わが国はその点においては未だに立派な後進国です。住宅メーカーの京都らしい町家住宅も相変わらずの全国流通品であり、本当に京都らしいものを創るためにはやはり地元の力が必要です。景観再生の問題も同様であると思われます。

 市民活動組織としての京町家再生研究会の今後の活動についてですが、町家再生には多様な場面、課題があり、それに対して総合的、有機的な対応が必要です。再生研究会は設立以来、調査、研究という理論的取り組み、個別で具体的な事例への実践的取り組みを合わせて、多様な活動展開を試みてきました。ニュースレター、ホームページ、シンポジウムなどにより広く情報発信を行い、京都のみならず、全国との交流も試みてきました。それらのことが行政の施策にも関連するような影響力をも発揮してきたと思っています。

 多くの会員は、それぞれの仕事を持つ多忙な中での活動参画であり、時間的な制約も大きく、また、活動は基本的にはボランタリーな作業によって維持されています。このような会員の負担は、結局、組織活動の体力の問題ともなってきます。この現実も踏まえて、今後、再生研究会の活動を有意義に維持するための方針を確認する必要があります。

 活動の流れの中で作事組、友の会、情報センターが独立し、積極的な活動を続けています。作事組、情報センターの活動は具体的な町家の再生実践に係わることによって目に見える事実的成果を挙げ、その活動目的、成果が分かりやすい。一方、再生研究会が主として受け持つのはそれらの活動を総合する理念的部分かと思われますが、理念面への取り組みは一見抽象的であり、その成果が即座には目に見え難く、具体的アピール性に欠ける面があります。できるだけ具体的な地域、物件との関わりを持ちながら、理念的追求を行うべきであろうと思われます。

 活動の最終の目標は京都における町家再生が住民の自発性によって展開される状況をつくることです。町家再生が自然に醸成されるための地盤となるのは、先に述べたアイデンティティの共有です。しかし、未だに町家再生を取り巻く、くらし、技術、防災、活用、資金など、多くの課題があります。最終目標を再生研究会がしっかりと見据えつつ、方法論としては他との有機的連携を有効に活用して様々な課題についての取り組みを展開します。すなわち、実践的な部分は内容に応じて京町家ネットの各専門組織である作事組、情報センター、友の会、あるいは、大学研究機関、さらに必要に応じて、コンサルタントその他に委ねます。再生研究会はその理念的な部分をしっかりと押さえ、成果を集約、蓄積し、それを根拠として次の活動への展開を図ります。そういうしくみを明確にすることは、研究会の体力、体勢作りと共に、現実的な体力にあった形で有効な成果を挙げるための方法であろうと思われます。活動は常に原点を見据えつつ、新たな展開を目指す。その原点は今、ここにあると考え、常に前向きな活動を展開して参りたいと思います。

2007.7.1