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京町家再生研究会
丹羽結花(再生研究会幹事)

顔のわかるつきあいから情報ネットワークの構築へ 
   ──全国町家再生交流会継続アンケートから

◎はじめに
 昨年6月行われた全国町家再生交流会が盛況であったことは既に報告されている通りである。報告書作成の際、次回の開催意向を問う継続アンケートを実施した。開催当時、「第2回」の開催を求める声もあがっていたが、少し冷静になった今、各地の人々はどのように思い直しているのであろう。全国規模の交流会はどのような意味があったのか、そしてもし引き続き開催するならば、どのようなことに意義があるのか。このような問題意識のもと、継続アンケートの集計結果を報告したい。

◎概要
 継続アンケートは2006年2月に実施した。交流会参加者のうち、住所・氏名などが明らかな176名にアンケートを郵送、回答を返送してもらう方式である。結果、28件の返送があり、回収率は16%であった。全体の傾向として、現場重視、そして法律関係の問題意識が強いことが感じられる。また、交流会に対する要望としては分科会に意見が集中した。以下、個別の質問についてみておこう。(なお、複数回答や無回答があるため、件数の合計は必ずしも一致しない)

◎企画
 具体的なテーマとして多かったものが、法規関係5件、具体的な改修事例4件である。前者では建築基準法への対処が大きな問題としてあげられている。後者では改修の過程をじっくりと見たいというものが多かった。他には伝統工法や技術の共有、耐震対策、流通関係、生活からのアプローチなどがあり、いずれも町家を健全に継承していくためのキーワードと考えられる。実際に見学したい事例や地域についてはばらつきがあり、特に傾向は見受けられない。

◎形式
 三つの選択肢をもうけたが、「できるだけ多くの参加者と交流したい」が6件であったのに比べると「分科会などに時間をかける」が15件と圧倒的に多かった。「両者のメリハリをつけたプログラム」が9件である。専門性の強い交流が求められていることがわかる。具体的には、テーマを絞る、専門分野に細分化する、グループの数や人数を減らす、討論に時間をかけるなどの改善案があげられている。実質的な「交流」がめざされているのである。

◎参加者側から伝えたいこと
 金沢では2月にシンポジウムを行ったこともあり、積極的な姿勢が窺える。行政も巻き込んで、実態調査、北陸地域のネットワークによる活動を目指しており、活動が進展しているようだ。

◎再生に関する情報
 情報の受け手として、職人と所有者という二つの対象が主に想定されている。いずれも具体的な改修や費用、経済効果など、明確な問題意識がある。

◎参加意向
 「今後も同様の催しがあれば参加したい」というのは27件であった。そもそも返送があったこと自体が高い関心を示しているわけであり、回収率程度の参加意向はあるといえよう。5件が企画側としての参加を表明したものの、「回を重ねてから」という条件付きであり、次回の開催を積極的に主催する意向を示すものは見受けられなかった。

◎日常的な情報交換
 もうひとつ、新たな展開として考えられていた日常的な情報交換システムの構築については、19件がメーリングリストや掲示板を使って行いたいと希望している。ただし、情報には幅があり、見学会から意見交換まで様々であった。討論の場合は参加者の限定やブログの活用などもあげられていた。しかし、システムの立ち上げや管理を行いたいという意向は6件であり、いずれも「時期をみて」「まず自分の地域から」など、今すぐ全国的なネットワークを構築するのはむずかしいと思われる。

◎まとめ
 自由意見を含めて、各所で見受けられたコメントをまとめてみると次の三つのキーワードに集約できる。
 一つは地域性である。まず各地域でグループを形成していくことが必要とされている。
 二つ目は専門性である。分科会への要望で見受けられたように現実的な技術や課題に絞り込んで討論や情報交換を行いたいということが明らかになっている。
 三つ目は具体的な事例である。方針や概念ではなく、実物から考えていこうという精神が窺える。

◎これからの課題
 全国交流会に寄せられている期待が予想以上に大きいことがわかる。「交流」にはあいまいなものではなく、ある具体的な法規制や事例に対してどのような対策がありうるのか、真剣に議論する場が求められている。規模を研究会レベルのように小さくしてでも、専門分野にターゲットを絞り、具体的な課題を検討しながら、実施する必要がある。一般向けのシンポジウムやイベント的な催しは必要ない。
 一方、全国的なネットワークの構築については時期尚早といわざるをえない。分科会を重ねることで、顔のわかるつきあいが広がり、テーマや地域で必要となったネットワークが徐々に広がっていく、というのが理想ではないだろうか。
 今の私たちに必要なことは、まず京都も一つの地域として各地と学び会うという姿勢であろう。そして、大がかりな仕組みを作る前に、地道な活動の積み重ねから生み出される情報や実績を整理して、各地の事例と比較し、共有していかなければならない。町家再生のこれからは、これまでの実績から生まれるのではないだろうか。

2006.7.1