• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家再生研究会
大谷孝彦(再生研究会理事長)

制度を変えると、町並みが生きかえる
■ストックベースの法制度づくり
 この9月に今井町で開かれた全国町並み保存連盟の大会で京町家再生研究会は「制度を変えると、町並みが生きかえる」という分科会を担当した。これについては改めて報告をするが、その時の高田光雄教授の基調講演の中に「既存不適格の顕在化」「ストックベースの法制度づくり」というキーワードがあった。先生からお聞きしたことも含め少しこのことに触れてみたい。
 「既存不適格建築」とは建築基準法に適合していないが既に存在する為にそのまま存続し続ける既得権を持つ建物であり、決して積極的に存在が認められているわけではない。最近、「ストック活用」がよく言われるが、ストックとは要するに既存のものであり、我々の取り組んでいる町家もストックとして見られている。また、ストックには「持ち合わせの、ありふれた、普通の」というニュアンスもあり、町家に関してみれば、文化財というような特別なものではなく、庶民の家として町中に広く存在し続けてきたものという形に受け止めてよいであろう。この伝統的木造都市住居である町家も「既存不適格建築」という立派な呼び名を与えられている。従って最近、国で取り上げられている町家をも対象とした「ストック活用の都市再生」という施策は、建築の法律を管理する同じ行政の立場の中で、大きな矛盾をはらんでいることになる。これをいかに解決するか。「既存(の町家)」と言われるものをなくしてしまうか。これはちょっと待った、である。町家は長年に渡って生きた暮らし、伝統職人の技などを積み重ねて創り上げてきた貴重な歴史的価値を有するストックである。そう簡単に切り捨てられては困る。「既存」を切り捨てるのではなく「不適格」の適格化を計っていただく必要がある。適、不適は建物と法というルールの関係である。町家の歴史的価値を認めるならば、「ルールを変える」か、「ルールの適用を除外する」ことが必要である。その他、「ルールの解釈を変える」のは法の主旨、目的と異なる解釈をすることであり、本質的な解決とは思えない。「ルールに合うように建物を変える」などはこの際、言語道断である。
 大切なことは「ストックベースの法制度づくり」を積極的に考えることである。現在の建築基準法のように建物の最低基準を定めるということを主とする制度ではなく、貴重なストックを創造的に活かすことを目的とした制度をつくるということである。「ルールの適用を除外する」ために他の制度を入れて柔軟な対応を計る例として、今井町、金沢市などにおける文化財保護法に基づく「伝統的建造物群保存地区」の指定、奈良町における「都市景観形成条例」の適用などがあり、京都市においては「景観形成に対する住民の意識と、自主的な防火に対する取り組み」と「将来にわたって伝統的な建築物及び歴史的な町並みを保全・継承していくことが必要と認められる地域であること」を条件として「歴史的景観保全修景地区」の指定のもとでの準防火地域の指定解除などがある。
 また、建築基準法第3条第1項第三号の「その他の条例」において、「現状変更の規制及び保存のための措置が講じられている建築物であって建築審査会の同意を得て指定されたものは建築基準法の対象除外とすることができる」とある。ここで考えられることは現状変更の規制、塩漬け的保存ではない「再生」という概念の導入ができないかということである。再生(regeneration)とは歴史性の創造的継承、文化的な目的での歴史的資産の再生活用である。単なるリフォーム、リニューアルではない。現在の法には文化財としての保存の概念はあっても創造的な継承という「再生」の概念がない。今後の社会の価値観を背景として、「歴史的ストックの再生活用とそれによる持続性のある都市再生」を国家戦略として進めるためにも「再生」の概念を積極的に法の中に取り入れることが必要であろう。
 しかし、ここで逃れることができないのが、防火、耐震(構造)などの防災の問題である。これについては前回取り上げているのでここでは述べない。特に今問題を残しているのは構造に関する問題である。伝統的建造物群保存地区においても基準法の防火に関する条項の適用除外はあるが、構造に関する適用除外はなされておらず、なんとなく眼をそらせているだけのことである。構造の問題の取り組みについては、伝統構法の構造設計に適していると言われる限界耐力計算の実用化、実物大の大型実験など多額の費用を要するものもあり、また、それぞれに行われている研究実績の総合的集約を行うというようなことでは、今後も国の直接的な係わりが必要であろうと思われる。また、建物の状況の個別差、地域差をどのように扱うか、国と地方の基本的な役割分担などについての検討も必要であろう。法の整備ができるまでの間、伝統技術に基づく補修や補強により、傷みの激しい建物を改良するという意味をもっと積極的に評価する必要もある。要は「ストックベースの法づくり」を本気で進めるのであれば、いくらでもその方法はあると思われるのであるが如何であろうか。
2004.1.1