• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家再生研究会
大谷孝彦(再生研究会理事長)

都市再生と町家再生
 平成13年12月の都市再生プロジェクトの第3次決定で「都市における既存ストック の活用」が「京町家をはじめとする都市の中心市街地の建築物について、伝統的な外観の継承や居住性の向上を図りつつ、再生・活用に向けた取り組みを強化する」とい う形で位置付けられた。これを受けて国土交通省が主体となって、平成15年度「都市 における京町家等伝統工法による建築物再生・活性化方策検討調査」が行われた。国が主体となった町家再生の議論の場ができた。町家等を活用したまちづくりを目指す 町の代表として金沢、奈良、橿原(今井町)と京都が参加し、学識経験者、各都市の 行政担当者が委員となり、市民活動組織のメンバーも再生活動実践者の立場で参画し た。中心となる検討委員会(委員長:巽和夫京都大学名誉教授)の下に、計画部会 (部会長:高田光雄京都大学教授)と防災・構造部会(部会長:室崎益輝神戸大学教 授)が設けられた。京町家等に係わる現状の評価、改修事例調査、伝統的工法・材料 等の検証、再生・活用のガイドラインの作成が具体的な内容である。その中で、われわれ再生研究会は京都における再生事例の資料提供を受け持った。また、私も防災・ 構造部会の委員として意見を申し上げる機会を得た。われわれ京都の町家再生活動実 績はそれなりに評価されたと感じている。
 様々な議論、意見交換が行われ、町家等の再生活用についての基本的な考え方や技 術的指針、支援制度の紹介によって、住まいづくり、まちづくりの指針を出すのが良 いのではないかということであった。町家再生、町家等を活かしたまちづくりの基本 的な道筋、具体的な考え方や手法を幅広く示すとともに、また、それぞれの地域にお いてはその状況やニーズに応じた様々な進め方ができるように、まちの実態把握、課 題の明確化、目標像の決定、手法の選択などに触れ、また、町家の所有者や利用者が 再生意欲を高め、自主的なまちづくりに貢献していく手助けとなることを目指し、そして、今後は行政とNPOの連携が重要となることも強調されていた。
 その中で伝統工法による木造建築である町家の防災に係わる法基準の課題があった。 防災には防火と構造の問題がある。われわれは伝統職人の技への信頼を根拠として補修、改修工事を進めているが、一方で社会的制度としての法基準への対応を考えざる を得ない状況がある。防火の問題については、今までシステマチックに継続されてき た実験・研究の成果として、町家の防火性能の検証と補強手法がかなり解明されつつある。一方で、構造、耐震性能については個々には研究が進められてはいるものの、 それらを総合する方向で、今後に継続して実験や検討を行う必要があると思われる。 伝統工法の構造的性能の正確な検証とその結果に基づく適切な補強の手法を確認し、 伝統工法の基準を明確にすること、更に、伝統工法を合法の建築とすることが必要で ある。これには今しばらくの時間が必要であると思われ、その間、伝統工法にそぐわ ない基準に基づく耐震診断によって、かえって町家が失われたりすることがないよう にするために、傷みの補修などの実践を老朽建物の改良として前向きに評価する制度があっても良いのではないかという意見がある。また、基本的に建築基準法が性能規 定になったのであるから、これを活かす方向で、国と地方の行政がそれぞれの役割を 確認しあって、伝統工法による木造建築について積極的な取り組みを進めて頂くこと が必要であると思われる。いずれにしても、安全と文化のどちらをとるかという二者 択一論から、双方を大切にする総合的な考え方への変化が見られる。国との共通の土 俵ができた今回の調査を契機として、構造に関する更なる検討が国家レベルでも継続 されるシステムを具体化しておくことを強く希望したい。我々も今後とも防災に係わ る法基準についての研究会やシンポジウムを重ねて行きたい。
 町家によるまちづくりを標榜する都市や町が全国に多くあるが、各地域によって伝 統建築の法制度に対する意識には大きな格差があるように思われる。伝建地区の中に ある町並みは文化財に係わる法のもとで護られている。しかし、先に述べた伝統工法 に即さない基準によって、また、都市においては経済性優先の開発を目指して来た都 市計画によって町家が破壊されてきた側面がある。そしてまた、全国一律的な法制度 によって、町家、町並みの個性が失われることがあってはならない。すなわち、法を 守りながら、個性ある安心・安全の自己表現の仕方が大切である。それぞれの地域の 歴史、風土による町家の個性、特徴を活かしながらの再生が行われなければならない。 この課題は、今月(9月19〜21日)、今井町で開かれる「全国町並みゼミ」の分科会 の一つに引き継いで話し合ってみたいと思っている。 

2003.11.1