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京町家再生研究会
大谷孝彦
 
防火規制の緩和と今後
この9月の京都市議会に町家の防火規制緩和を目指して具体的には祇園町南側地区を対象とした条例案が、京都市から上程される。これについての詳細は後の頁で、神戸大学都市安全研究センターの室崎益輝教授にご執筆をお願いしている。伝統的木造建築である京町家と歴史的町並みの保全のためには一歩前進の施策である。地区の住民の景観保全に対する意識が高いこと、自主的な防火活動が定着していることが条件であるが、これは当然のことであり、住民の意識、自主性を評価したことが、従来の固定的な観念を打ち破ったという点でも評価される条例案である。市の内部において、以前から検討が続けられていたものであろうが、これが突然に市民の前に公表される形が相変わらずではあるが、この所、行政にも町家保全のための具体的動きが出てきたように感じられる。

 今年の3月には社団法人日本建築学会(仙田満会長)から京都の都市景観に関する提言が京都市に提出され、また、5月には京都市まちなみ審議会(座長 青山吉隆 京都大学大学院教授)からの答申が出された。建築学会の提言は平成10年以来、4年間に渡って継続した建築学会の「京都の都市景観特別研究委員会」(委員長 岡崎甚幸 京都大学大学院教授)によってまとめられた調査、研究報告に基くものである。それぞれの中で京都の都市景観、京都都心部のまちなみの保全、再生に係わる町家の重要性とその継続居住、活用を可能とする施策の推進、実行の必要性が提起されている。

 市の今回の防災規制緩和の動きもこれらの様々な働き掛けと呼応したものと思われる。その他本年度京都市では阪神大震災の後、国の指導による密集市街地における「防災都市づくり計画」の策定にもとりかかっていると聞く。「防災再開発促進地区」に指定されると耐震化などの事業で国の補助が受けられる。しかし、歴史的木造建築町家が多く残る京都においては全国一律的な耐震、防火性能を基準にするのではなく、京都の特性をふまえた対応の仕方を検討する必要がある。

 先般、国土交通省の課長をお招きして、お話を聞く会に出席する機会があった。建築基準法の改正によって規制が緩和される方向にあることが基本的な話の一つであったが、これは都市活性、経済活性を第一の目的とするものであって、京都のような町家再生型の都市づくりを目指す場合には必ずしも有利なものではないこともあり得る。ただし、条例による幅広い法の運用展開の可能性につながるわけである。その点を活かして京都市は歴史都市として持続性のある都市再生を真に目指す、その方向性の中で更に積極的な法の運用を計ってもらいたい。それによって国の「都市防災づくり計画」にしても、その恩恵を正しく受けることも可能であると思われる。既に行われている国の規制緩和、都市活性、経済活性の方針を歴史都市京都としてその目指すべき方向性の中で、即ち、文化を生かしながらの活性化として受けとめ、京都としての特徴ある、また今後に長く持続すべき方策を積極的に具体化する必要がある。今回の祇園町南側地区に対する施策はそのような法の運用としての条例制定によるものであり、我々としては今後も、柔軟で幅のある法の運用、施策の更なる展開に期待している。

 行政としては、市民に対する平等性、個人の情報に係わることへの配慮に慎重にならざるを得ないことは理解される。しかし、そのために何事にも時間がかかり過ぎることも困りものである。市民の側においても、歴史都市としての京都の今後のあり方について積極的な関心を持ち、はっきりとしたアイデンティティーを共有して、行政と共に町づくり、都市づくりを進める意識と行動が必要である。市はオープンな対話のもとに市民活動、地域活動との連携を計ることによって、まず基本的な方針への理解を得ることができ、そして地域の特性を生かしながらも都市としての様々な社会的条件の中での総合性のある施策を実行することが可能である。情報の共有と対等な関係を基本として、市民と行政の協働のしくみを具体化する必要がある。これは緊急を要することである。国では法律としての基本的な対応は既にできているとのお話である。確かにその運用に手間取ってはならない。先の提言も答申も強くそのことを訴えている。