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京町家再生研究会
大谷孝彦

町家再生の設計について−建築家によるミニシンポジウム
  京町家再生研究会の二月例会は、京都の町家再生に取り組み優れた事例を残しておられる建築家5人にお出で頂いてミニシンポジウムを行った。再生の活動の横の繋がり、ネットワークを作っていこうという今年の例会の趣旨の下、その第一回目としての企画である。

 昔、建て主である町衆と施工者である棟梁によっておこなわれていた町家普請には独立した職種としての建築家は係わっていなかった。今は町家の修復再生に建築家が係わる機会も多く、意匠的にも様々な再生事例がみられる。居住系の再生、店舗系の再生において少し事情も違うが、一見して伝統的木造建築の雰囲気を強く継承したものからかなりモダンに見えるものまでそこには様々な個性がある。そして、そのことに対して、いろいろな意見がある。当日、会場からは、「昔は職人さんである棟梁がデザイナーでもあり、町家は伝承の技として自分自身を殺した姿勢で、見えない工夫の積み重ねによって作られてきたものであった」との意見があった。創造性に係わる設計、デザインに関して全く統一された基準を作ることはナンセンスである。しかし、お互いの意見交換を通じて町家再生についての基本的な共通項、アイデンティティーを共有することは可能であり、必要なことであると思われる。そのことによって再生の設計に個性を持ちながらも、なんらかの秩序性を作ることができるかも知れない。

 近現代、町家をとりまく環境が大きく変わり、そして今、新たな町家再生が求められている。町家はかっては持続し続けてきた大切なものを実感できる今や数少ない対象物である。再生とは創造性をもちながら歴史の継承と新たな展開を合わせて行うことであり、その意味において新たな歴史的行為であり、次なる時代の持続を約束する。町家再生を通じて、今求められる暮らし、社会、文化の再構築が可能であるとも思われる。そして、このような場において、建築家の果たすべき役割は重要であろうと思われる。

 ご自分が取り組んでこられた実績に基づくそれぞれの建築家の発言は、私の個人的な受けとめ方の中で整理したものではあるが、つぎのような内容であった。
町家再生は継ぎ木。自分の手を消すこと。インテリアデザイナーなどそれぞれの得意分野の人たちによるチームをつくり建築家は自分の守備範囲として、潤滑油としての役割を果たす。必要に応じての決定の責任。
京都の人が京都のことをじっくりと考える、そしてその個々の人の集まりが必要。京都、町家の中にある血(本質)。納まりなどについて職人さんに教えてもらったこともある。
住まいの中にある過去からの時間の積み重ね、大事なものを残す。町衆がもっていた良い仕事をはっきり評価する目を養い、設計の腕を持つ。今、足りないものは家を建てる方の意識。ひとりひとりが作っていくという意識を高める。
建物のルーツとしての木造の価値を引き継ぐ。通り庭、坪庭などに見られる分節、相関などの空間の関係を再生デザインに。京大工が作ってきた木造建物全体のなりわい。いいものを残すために、生きた形で職方と共有できる現場をつくり出すこと。企画、運営のプログラム。
町家には都市居住の知恵、建物の完成度、合理性など考えさせられるものが多い。優秀な棟梁と一緒に仕事が出来て身を持って分かったことが大切。形ではない日本美の本当の特質をもとめる。町家再生の動きを一時の流行りに終わらせないように。

 そして、町家はそこに引き継がれてきたくらしと職人の技との係わりを抜きに語れない。今後の例会では、町家に暮らす人、町家を作る人との対話の場を設けていきたいと考えている。

【今回参加頂いた建築家】
 馬場徹(建築商会)
 杉木源三(潟Xペース)
 栗山祐子(Win建築設計事務所)
 木下龍一(アトリエRYO)
 野間光輪子 (野間建築設計事務所)