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京町家再生研究会
京町家通信  vol.101

前理事長大谷孝彦氏の遺志を継いで

 4月4日、前理事長大谷孝彦氏がお亡くなりになられました。京町家再生研究会ができて23年、望月会長、大谷理事長と10年ごとに代表者を交代するという節目をこえたところでした。これからは大所高所でご意見をいただけるものと思っていただけに、大変残念な気持ちで一杯です。

 京町家再生研究会として初めての取組となった「橋弁慶山町会所」の再生設計をご担当になり、その経緯は「町家再生」にも丁寧にお書きいただいております。研究会としても初めてのことで、様々な問題が生じたと記憶しておりますが、じっくりと丁寧な対応をされ、あれこれと発見があったことを楽しそうにお話しになっていたことが思い出されます。橋弁慶山の町会所再生はいろんな意味で記憶に残る再生事例でした。町家を再生することに対する現行の建築基準法との整合性を検討するために議論が重ねられました。また、町家の軒に水幕防火のための手動のドレンチャーを設置することも試みました。京都大学の建築の先生方が多く関わられた事例でもありました。残念ながら手動の水幕防火は認められませんでしたが、町家の防災に対し、問題提起がされ、解決方法を皆で議論、検討したことは今の活動にもつながっております。その要になっておられたのが大谷さんでした。

 研究会の発足は望月、大谷両氏が両輪となって動きだし、町家という言葉すら一般化していないときにいち早く減少の一途をたどっている町家の危機感を打ち出されました。地道な活動でしたが、1軒ずつ丁寧に検討し、図面を広げながら皆で意見を出し合い、問題があるものについては、専門家を招きお話を伺うということを重ねてきました。1軒1軒の町家をそれぞれ丁寧に対応するという京町家再生研究会の活動の基本はこのときに培われたことです。忘れてはならないことだと思っております。

 町家再生は今や京都では当たり前のこととなり、木造を再生するということは全国的にも広がりました。玉石混淆、様々な再生が行われています。これからもこの流れは続くことと思いますが、ひとつずつを丁寧に検証し再生の手法を考えるということをもう一度しっかりと見直したいと思っております。町家再生には防火、防災など現行の法規制との整合性や高齢化、維持管理など問題は沢山ありますが、近い将来、これらの解決策を見つけることが、いつも正面から町家と向き合い、取組んでこられた大谷さんの真摯な姿勢をずっと見続けてきた私たちの役割です。

 大谷孝彦さんのご冥福をお祈り致します。

小島富佐江(京町家再生研究会理事長)