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京町家再生研究会
京町家通信  vol.100

京町家と京町家再生研究会のこれから

 京町家再生研究会が設立されて23年目を迎える今年、京都市に京町家を専門とする部署である京町家保全活用課がまち再生創造推進室の中に設けられます。京都市幹部によると朝から晩まで京町家のことだけを専門に考える部署であるとのことであり、大いに期待されます。

 さて、第1期の京町家まちづくり調査が行われた20年前と比べると、京町家を取り巻く状況は大きく変わりした。多くの専門家や事業者の方々が協力することにより年間数百件の京町家が再生されるようになり、京町家居住者の町家意識も10%から27%に向上しました。京都市も様々な支援の制度を整えてくれました。なにより暮らしの文化の継承が求められることが共通の認識となってきました。

 しかしながら、依然として変わらない課題が残されています。相続問題であり改修費の負担問題、改修技術の普及問題、所有者意識の問題等です。これらの問題も少しずつ改善されてきましたが、基本的な課題は残されたままです。民法は相続人に平等であることを求め、税法は社会的に平等であることを求めており、京町家を分割することや処分することを余儀なくしています。さらに建築基準法や消防法は、新築に適用する基準を既存建築にも適用することを求めており、様々な工夫や労力をかけなければ継承する事が困難になっています。

 そして、これらの問題が顕著に現れるのが、大型京町家の継承問題です。相続税の負担を含めて家族間の継承が難しく、改修費の負担は莫大であり、活用したり新しい継承者を求めることも容易ではありません。京町家の継承をサポートするためには、何よりも所有者に寄り添いながら我が事として考えることが求められますが、寄り添うだけでは問題は解決しません。具体的に課題を解決する手法や主体が求められます。それらの主体は基本的に民間であるべきですが、行政にはそうした活動の基盤を整備することが求められます。


元学区別京町家分布図
 私には4つの夢があります。第一には、全ての京町家を建築基準法の適用除外とすることを前提とした(仮称)京町家条例の整備です。これは、優れた建築士・大工を登録し、彼らの設計・施工を条件に改修工事を許可することとします。さらに適切な維持管理と全ての改修工事許可の申請を義務付け、不適切な改修工事を排除します。さらに解体工事を1年前の事前届出制とし、この間に次の担い手を選定することとします。第二には、大規模な京町家の継承に取り組む(仮称)京町家倶楽部の設立です。京町家の継承に関心と意欲のある人々と京町家所有者で構成する倶楽部であり、京町家の暮らしの文化を楽しみながら継承していく豊かさと心構えを共に学び、京町家所有者は次の担い手の資質を理解します。そして必要に応じて、倶楽部メンバーの間で継承されていきます。第三には、(仮称)京町家まちづくり会社の設立です。オール京都の管理型信託会社を基盤として設立し、京都の不動産事業者との連携により京町家の継承や空き家の整備に取り組みます。第四には、(仮称)官民連携密集市街地整備事業の創設です。非常に劣悪な袋路等を買い上げ、居住者には近くの京町家借り上げ住宅を準備し、底地は民間に払い下げて住宅等に再整備します。これらの事業費は民間への底地払い下げにより確保します。

 これらの夢の実現にあたって京町家再生研究会には大きな期待をしています。とりわけ、第二の(仮称)京町家倶楽部の設立に際してはホストとしての役割が果たせるのは京町家再生研究会のほかにないと考えています。また、優秀な建築士や大工の育成が不可欠ですが、その点でも京町家再生研究会には中心的な役割を果たしていただくことが期待されます。最後に、京都市に新規に設置された京町家の部署のメンバーをはじめ、京都の様々な業界・職能団体等の教育・啓発の面でもご尽力いただくことを大いに期待いたします。

寺田 敏紀
<公益財団法人京都市景観・まちづくりセンター専務理事>